第286話 おじさんワクワクがとまらない
おじさんは短距離転移を使って少し離れた場所へ飛ぶ。
そこから聖域へとさらに転移を重ねた。
それは混ぜるな危険の香りがしたからだ。
聖域の中にある足湯に、横並びで腰を落ち着けるおじさんたちである。
「で、なにかありましたか?」
おじさんが
「んん。用はあるけど、大事なのはリーちゃんとお話することかな」
そんな人外の姉に対して、おじさんは“仕方ないですわね”と思った。
迷惑ではある。
が、おじさんを慕うからこその行動なのだ。
それを強く諫められないのが、おじさんである。
前世では孤独なことが多かったのだ。
だから、多少のことは飲みこんでしまえる。
そんなおじさんの思いとは別に話が進んでいく。
「実はね、リーちゃん」
と、
「お姉ちゃん、リーちゃんの役に立ちたいなぁって思ってたの」
そんなことは思わなくてもいい。
役に立つとか立たないとかで、判断するおじさんではないのだ。
「でね、聖域の管理をしてたら思いだしちゃったのよ」
足をバシャバシャと動かす
「なんたってお姉ちゃん、それなりに長く生きてるでしょ?」
どこか甘えるように、
「それでね、下級精霊と中級精霊にお願いしたのよ」
“ほう”とおじさんが声をあげた。
「昔にね、この近くにおっきな町があったから調べてみてって」
ちょっと待ってほしい。
これ、ひょっとしなくてもスゴい発見なのでは。
おじさんの胸が高鳴る。
「そしたらね、つい先日、下級精霊が教えてくれたの」
ごくり、と息を呑むおじさんであった。
「おっきい町が地下にあるって」
「なんですって!」
思わず、立ち上がってしまったおじさんだ。
「きゃ。ちょっと…………リーちゃん?」
おじさんは
その目はとても真剣なものである。
地下に眠る古代の遺跡とか。
そんなものは反則である。
ピラミッドの謎とか正体不明のUMA、未確認飛行物体。
どれも大好物のおじさんだ。
ただし、あくまでもエンターテインメントとしてだが。
「お姉さま! それはとっても楽しそうですの!」
「ふふん! でしょう?」
全身から褒めてオーラがでる
その姿を見て、おじさんは内心で苦笑を漏らす。
だが、空気を読んで笑顔を作った。
「すっごいですわ! さすがわたくしのお姉さまです!」
「むっふっふ。お姉ちゃん、なにかやっちゃいましたか?」
満面のどや顔である。
これ以上ないくらい鼻の下が伸びている
「これは大発見ですわよ!」
「いやぁお姉ちゃん、知ってただけなんだけどなぁ。知ってただけなんだけどなぁ」
なぜか二回も繰りかえす。
それだけ大事だということか。
「さすがお姉さま! その知識には脱帽ですわ!」
「むっはー! お姉ちゃん、役に立っちゃったなー。さっそく役に立っちゃったなー」
さすがに飽きてきたおじさんである。
このままだといつまでも続きそうだ。
「お姉さま、役に立つとか立たないとかはどうでもいいのですわ。わたくしにとっては大事なお姉さまは居てくださるだけでいいのです」
「はう! リーちゃん、なんていい娘なの! 姉さまたちに聞かせてやりたい!」
「お姉さま、わたくし直ぐに行ってみたいのですが、少し待っていてください」
話がきな臭くなってきたところで、賢明なおじさんは離脱を試みた。
「あ、さっきのお友だちのところね?」
「そうなのです。転移魔法を使って連れてきたので、一度戻って準備をしてまいります」
「うん。じゃあ待ってりゅ」
温泉地へと戻ったおじさんを見て、
「リー様! ご無事でしたか!」
アルベルタ嬢が代表して声をかける。
「問題ありませんわ」
おじさんの言葉に全員がホッとした顔になる。
「先ほどのあれは水の精霊ですわね。しかも上級の」
確認をとるような口調のアルベルタ嬢だ。
「ええ、ちょっとした縁がありましたの」
「水の精霊ですって? 今度会ったら負けないわ」
シュシュとシャドーボクシングをする聖女だ。
と言うか、聖女を打ち上げたのはおじさんである。
が、水の精霊がしたと勘違いしているのだろう。
やはり、聖女と水の精霊は離して正解だったとおじさんは思う。
「皆には申し訳ないのですが、緊急の用件が
おじさんが丁寧に頭を下げる。
「後日、この埋め合わせはいたします」
「リー様、お顔をお上げください。謝られる必要はどこにもありませんわ。それよりも楽しいひとときを過ごさせていただき、ありがとうございます」
“ありがとうございます”と
「では、学園に戻りましょう」
おじさんたちは再び逆召喚で王都に戻るのであった。
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