第279話 おじさん一発ドデカいのを打ち上げる


 おじさんの思いつきで急遽の予定となった花火大会。

 夏と言えば、おじさんは花火大会なのだ。

 遠くからしか見たことはないけれど。


 日が落ちる少し前には、公爵家の全員が集まっていた。

 祖父に祖母も転移陣を使って王都へと足を運んだのだ。

 転移陣を刻んでよかったと思うおじさんである。

 

 久しぶりに家族が全員そろって夕食をとった。

 メニューはおじさんが開発したうどんである。

 騎士たちから声があがり、それを公爵家が許可した形で取り入れられた。

 

 今回は夏仕様である冷やしである。

 ちゅるちゅると麺を食べる面々の姿は、どこかシュールであったそうな。

 とは言え、味は確かなものだ。

 

 サクサクに揚げられた天ぷらも美味である。

 おじさんにとっても満足できる味だった。

 

 ついでにデザートは抹茶を使ったプリンである。

 お子様組にはノーマルなプリンだ。

 例に漏れず、イカっ腹になるまで食す弟妹たちであった。

 

 そんな夕食をすませた後、しばらくの休憩をおいて花火大会が決行される。

 虫よけの練り香が焚かれ、庭には特別な席まで設えてあった。

 手際の良さが公爵家使用人たちのレベルの高さを思わせる。

 

 おじさんはと言えば、ひとりで少し離れた場所に立つ。

 

「そろそろ始めますわね」


 声をかけてから、天にむかって掌をかざす。

 

 どん、と火球が夜空に打ち上がり、色鮮やかな花を夜空に描いた。

 

 昼間に打ち上げるのとは、ひと味もふた味もちがう。

“おお”という感嘆の声があちこちから聞こえてきた。


 ちなみに花火大会の件は、父親が王城にも話を通してある。

 使用人たちはご近所さんや出入りの商人に伝えて回っていた。

 その結果、王都への襲撃だと勘違いされることはなかったのだ。

 

 感嘆の声におじさんは気をよくする。

 どんどん、と続けざまに火球を打ち上げていく。

 

「はえーきれー」


 弟妹たちは口を半開きにして、夜空を眺めている。

 

「いいわね、こういう魔法の使い方も悪くないわ」


 思っていた以上に、美しい光景に母親は手をワキワキとさせている。

 自分もしてみたい、というのが丸わかりだ。

 それは近くに座る祖母も同様だった。

 

 一連の流れが途絶えたタイミングで祖母が声をかける。

 

「リー!」


 おじさんはコクリと頷く。

 祖母と母親の姿を見れば、何がしたいのかを理解できた。

 トリスメギストスを召喚して、術式を二人にレクチャーしてもらう。

 

 おじさんが開発した花火の魔法は、主に三種類。

 それは花火の種類に準じたものである。

 

 ポカ物、半割物、割物を再現している。


 ポカ物は柳状になる花火が有名だろう。

 半割物はひと息おいてから小花が咲く千輪菊が代表的なものだ。

 そして。

 打ち上げ花火と聞いてイメージするのが割物だ。

 

 おじさん、ここまでは半割物を中心にポカ物をまぜていた。

 

「お母様、お祖母様、いけますか?」


 返事の代わりに二人からサムズアップが返ってくる。

 

 二人で魔法を撃つのだ。

 おじさんのときよりも圧倒的な量の花火が打ち上がる。

 

 その美しい光景に、皆が言葉を忘れたかのように見惚れていた。

 おじさんも思わず、ニッコリするデキである。

 

 母と祖母に触発されたのか、おじさんも気合いを入れ直した。

 ここからは割物を投入していく。

 一般的には菊と呼ばれる大物の花火だ。

 

 ひときわ高く打ち上げられた火球が、夜空に大輪の花を咲かせる。

 糸を引くように流れ落ちる火花の色が、二転三転していく様は芸術であった。

 

 王国において初めての花火大会である。

 その光景を見た王都の民たちからも声があがった。

 

「うおおおおおお!」


 唸るような声が、公爵家のタウンハウスにも聞こえてきた。

 

「いいわね! 気兼ねなく魔法を撃てるのは!」

 

「ふふ……こういう形で民が楽しめるのなら領地でもやるべきだね」


 母親と祖母の二人が口を開きながらも魔法を撃ち続ける。

 

 おじさんも負けずにばっかんばっかんと魔法を撃つ。

 それを見ていた弟妹たちも参加してくる。

 様子を見ていた祖父と父親もだ。

 

 さほど難しい魔法ではないのだ。

 そのため祖父と父親もしっかりと花火を打ち上げている。

 

 だが、おじさんと違って魔力の量には限りがあるのだ。

 妹、弟と欠けていく。

 

 そして最後に残ったのはおじさんだった。

 

「さぁお遊びはここまでですわよ!」


 おじさんが本気になった。

 天に掲げた掌を中心に魔法陣が複数展開される。

 さらに魔力を高速で励起させ、それを完璧に制御してみせた。

 

「いっきますわー」


 それは昼であった。

 夜天が一瞬にして昼に変わったような圧倒的な光量。

 夜空に太陽が昇ったかのようである。

 

「おほほほほ! 楽しくなってきましたの!」 

 

 展開された魔法陣から同規模の魔法が湯水のごとく撃ちだされる。

 もはやどこが花火なのかもわからない弾幕であった。

 

「目がぁああ! 目がぁああああ!」


 あまりの光量に目がやられたのだろう。

 そんな声があちこちから聞こえてきた。

 

 公爵家の面々はいつの間にかサングラスを装着している。

 暢気に拍手なんかしているのだ。

 

「お、お嬢様!」


 意を決して近づいたのは家令であった。

 

「どうかしましたか?」


「もう、今宵は十分かと。民たちもお嬢様の慈悲に感謝していることでしょう」


「そうですの?」


 おじさんが周囲を見ると、使用人たちが頷いていた。

 

「では、この辺りで終いとしましょう!」


 最後の最後でおじさんが打ち上げた花火。

 それは天を舞うドラゴンの群れを模したものだった。

 

「ぎぃやああああああ!」


 王都に悲鳴が充ちる。

 その余りにリアルな造形に勘違いする者も多かったそうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る