第272話 おじさん学園長と情報を交換する


 おじさんと学園長は二人して、学園の闘技場に移動していた。

 あの後、魔法談義をしていた二人なのだが、ちょっとやってみようという話になったからだ。

 

「リー! ではいくぞ!」


 学園長が魔法を放つ。

 

【氷弾・改二式】


 自己加速する氷弾の改良版。

 おじさんの開発した魔法である。

 

「学園長!」


「かか。わしとてまだまだ衰えておらぬぞ!」


 だが、おじさんの張った結界に吸収されていく。

 それはおじさんが作った私製結界だ。

 魔力を吸収する性質を持つ。

 

「なぬぅ! しかし、この目で見ると驚きじゃな。吸収した魔力は循環されて、さらに結界の維持に使われるのか。これでは迂闊に攻撃できんな」


「いえ、この結界は魔力に特化したもの。物理的な攻撃には弱いですわ」


「じゃが、魔力をのせた攻撃なら吸収してしまうのじゃろう?」


「もちろんです!」


「お次はわたくしの番ですわよ!」


 おじさんの言葉に学園長が頷いた。

 クン、と指を持ち上げると闘技場の舞台から石の塊がせりだしてくる。

 その石の塊に通常の結界を張る。

 

【氷弾・改三式】


 おじさんが得た新しい力を使った氷弾シリーズだ。

 この氷弾は二式までの特徴に加えて、魔力を浸食していく。

 つまり先ほどの結界を攻撃用に転用したものだ。

 

「おお! わしの結界が一瞬で」


 そう。

 おじさんの放った氷弾は一瞬のうちに結界を浸食し、標的を穿っていた。


 その光景を見た学園長は思う。

 ――やはり、リーを出場禁止にして正解だと。

 

 おじさんが学内の魔技戦に出場した場合、対戦相手は全員心が折れてしまう。

 そこまでの絶望的な差があるのだ。

 なにせ自分ですら、先ほどの結界を破る術が思いつかない。

 逆にこの氷弾を使われれば、防ぐこともかなわないのだ。

 

 最強の矛と盾を持った相手と真正面から対戦する。

 そんなバカげた話はない。

 

 仮に実戦であるのなら、対策を練りに練って搦め手を使いまくる。

 そのくらいしか勝てる見込みがなそうだ。

 

 いや、それですら無理かもしれない。

 

「学園長。もう一度結界を張ってくださいな」


 おじさんの言葉どおりに結界を再度展開する学園長である。

 

邪神の信奉者たちゴールゴームの幹部が使っていた魔法もお見せしておきますわね」


黒閃光スレイ!】


 おじさんが放った黒い閃光が学園長の結界を貫く。

 

「うむ。発動が速く、貫通力が高い魔法じゃな」


 目を細める学園長であった。


「そうなのです。これに加えて陰に潜む魔法を使ってきますの」


隠密ハインド


 おじさん実は陰魔法も会得していた。

 レグホーンの時には散々こきおろしていたのに。

 

 おじさんの身体が自身の陰の中に沈みこむように入っていく。

 むろん本体がなくなれば、陰もなくなる。

 だが、これは魔法なのだ。

 

 陰だけがそこに残り、ひゅっと音を立てるように移動する。

 その速さと隠密性の高さに学園長も見失ってしまった。

 

 学園長が辺りをキョロキョロとしていると、明後日の方向から黒い閃光が走る。

 結界を貫くまで学園長は気づかなかった。

 

「むぅ。これは厄介じゃのう」


 学園長が呟くのと同時に、足下から陰がわかれて少し離れた場所におじさんが姿を見せた。

 

「不意打ちをするのには適した組み合わせですわね」


「探知の魔法は?」


「効果がありませんでしたわね」


「では、この不意打ちをどう防ぐか、か」

 

「ちなみにこの魔法を使っていたのは、邪神の信奉者たちゴールゴーム三巨頭の一人、とか名のっていましたわ。なので、幹部クラスしか使えないかもしれません。が、対策は立てておいた方がいいかと」


 おじさんの言葉に、学園長はヒゲをしごきつつ頷く。

 

「それであの鎧か」


「そうなのです!」


 ふんす、と鼻息を荒くするおじさんである。

 

「では、ますますわしも手に入れておきたいのう」


 そこでおじさんは気づいた。

 なんかちょっと話がおかしくないか、と。

 あの鎧はあくまでもオマケである。

 

「あの……学園長」


「どうしたのじゃ?」


「黒閃光を防ぐだけなら、あの鎧でなくてもいいのですよ」


「なぬう! ドイルからそんなことは聞いておらんぞ!」


 学園長から話を聞いてみるおじさんだ。

 その結果わかったのは、父親がはしゃいでいただけである。

 肝心なことは伝えていなかったようだ。

 

「もう! お父様ったら!」


 と、口では言いつつも気持ちは理解できていた。

 だって、あの装備は自慢したくなる。

 手前味噌だけど。

 

「リーや、ではどうすればあの魔法を防げるのじゃ?」


 話を本筋に戻した学園長であった。

 

「これですわ!」


 おじさんが腰のポーチから小瓶を取りだす。

 シンシャが作ってくれたコーティング剤だ。

 

「この液体には魔法を拡散させる作用がありますのよ。製法は秘密ですわ!」


 軽く釘を刺しておくおじさんである。

 シンシャのことをツッコまれると大変だからだ。

 

「ちょっと待てぇい! リー、その液体はとんでもない発明じゃぞ!」


「だから扱いはお父様たちに任せていますの」


 しれっと丸投げするおじさんである。

 母親から言われているのだから、これでいいのだ。


「学園長、冥府のローブはお持ちですか?」


「うむ。持っておるよ」


 空気を読んで、ローブを宝珠次元庫から取りだす学園長である。

 おじさんが初回のダンジョン講習で入手したレアドロップだ。

 あの後、なんだかんだで冥府のローブは学園長の所有になっていた。

 

「少しお借りしますわね」


 錬成魔法を使うおじさんである。

 一瞬で冥府のローブにコーティング剤が付与されてしまう。

 

「……これで大丈夫ですわ!」


「見た目には何も変わっておらんのだな」


 手渡されたローブをしげしげと見つめる学園長である。


「ちょっと魔法を撃ってみてくださいな」


 学園長はその言葉に従った。

 

「おお!? おお!? スゴいぞ、これは!」


 夢中になる学園長を少し離れたところから見るおじさん。

 その目は同志を見るものであった。

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