第271話 おじさん二学期を前にして学園長に呼び出される


 おじさんが王都に戻ってきて数日が経過した。

 学園の二学期がスタートするまで残すところ、あと三日である。

 

 その間もおじさんは色々と多忙であった。

 特におじさんが力を入れていたのがTRPGである。

 トリスメギストスが作成の中心を担うとはいえ、ルールブックの監修をしなくてはいけない。

 

 他にも母親と一緒になってやらかしたり、祖母と三人でやらかしたり。

 それを聞いた父親がお腹が痛いと言い出したり。

 忙しないが充実した日々を送っていたのだ。

 

 そんなおじさんに対して、学園長からお呼びがかかる。

 まぁ色々あったのだから、それも当然かと思うおじさんだ。

 久しぶりに学園の制服を身につけたのだが暑い。

 

 そろそろ夏も終わろうかという時期である。

 だが、暑いものは暑いのだ。

 ふむ、と少し思案したおじさん制服に錬成魔法をかける。

 

 温度調節の機能を魔法で付与したわけだ。

 おじさんお手製の装備にもつけている機能である。

 制服につけると随分と快適になった。

 

 そんなわけでおじさんは、淑女らしく汗ひとつかかずに学園に到着したのである。

 学園で働く職員たちとすれ違うたびに挨拶をしつつ、学園長の部屋へとむかう。

 

「おお、よくきてくれたのう」


 学園長に挨拶をしつつ、勧められてソファに腰掛ける。

 

“ご無沙汰しております”と挨拶もそこそこにおじさんは手土産を渡す。


「こちら当家で新しく販売する物なのですが……」


 おじさんが取りだしたのは、言うまでもなく漆器である。

 黒塗りの蒔絵模様が入った豪華な小箱だ。

 さらには二種類の杯も用意してある。

 

「ほう! 噂には聞いておったが、これはまた見事な物じゃな」


 ひと目で心のお気に入りに登録した学園長である。

 手に取ってしげしげと眺め、おじさんを顔を正面から見た。

 

「リーや、そう言えばのう、聞いておるよ。スランに贈った武具のことを」


「お父様も仰っていましたわ、随分と無理を言われていると」


「そりゃあ欲しいじゃろう! あのような見せられて黙っておるのは男の子おのこじゃないわい」


「学園長も欲しいのですね」


「うむ。そこで仕様書をこうしてだな」


 どさりと、紙束を机の上に置く学園長である。

 それを手に取り、ちらりと見るおじさんだ。


「……わたくしに否はありません。が、学園長。この仕様書のすべてを満たした場合、恐ろしいほどの金額がかかってしまうのですが」


「うむ。だから、それは理想案じゃのう」


「では現実的な案もあると?」


「もちろんじゃ!」


 さらに紙束をおかわりする学園長。

 

「その辺についてはお父様と交渉してくださいな。正直なところ、わたくしにはどうすればいいのか見当もつきませんし」


「で、あろうなぁ。リーよ、次代の王になる気はないか?」


「ありませんわ」


 にべもなく断るおじさんだ。

 さらにいくつかの話題を交わしてから学園長が本題に入った。

 

「さて、リーよ。いくつかこちらの動きも告げておく必要があると思ってな」


 はて、とおじさんは首を傾げる。

 

「まずは殿下たちのことじゃな。詳しい話はスランからあるだろうから省くが、学園としては休学の扱いとしておく。いずれ時期を見て復学することになるだろう。取り巻きたちも同様じゃ」


 そういう話かとおじさんは理解した。

 色々と王城の方でも扱いを決めあぐねているのだろう。

 おじさんとしては婚約が破棄できたのだから、あとはどうでもよかったりする。

 

「それと魔技戦のことなんじゃがのう」


 学園長の歯切れの悪い言葉に嫌な予感がするおじさんである。


「リーは出場禁止じゃ」


「おほほほほ。ご冗談を」


「冗談でもなんでもないわい。リーが出場する意味もなかろう」


「それは殺生というものです! 仲間はずれにするなんて!」


 おじさん、イベントには参加したいのだ。

 だって独りぼっちは詰まらないから。

 そんなものは前世で散々味わってきたのだ。

 

「じゃがのう……そもそも薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが規格外なんじゃよ」


「は? 学園長には敵わなかったと聞いていますが」


 学園長は白鬚をしごきながら、呵々と大笑する。


「確かにわしには勝てなんだが、学生の腕前ではないぞ」


「むぅ。でも、それとこれとは関係ありませんわ」


 おじさんが反論した。

 だが、学園長は深く息を吐て首を横に振った。


薔薇乙女十字団ローゼンクロイツは全員が、かなりの腕前じゃな。その上に立つリーの腕前はと言うとじゃ、恐らくはわしですら相手にならん」


 無言である。

 沈黙は肯定として捉えられてしまうものだ。

 

「そこで提案しよう。リーは学内の魔技戦は殿堂入りということで出場禁止。じゃが対校戦には出場してもらう。ただし攻撃魔法は禁止とする。補助魔法と体術のみで参加ということでどうじゃ?」


「それはもう決定ですの?」


「フレメアから報告があがってきておるから誤魔化せん」


 なぬ! とおじさんは思った。

 話の出所はそこか、と。

 

「承知しました。では、そのようにいたしましょう」


 意気消沈したおじさんである。

 その姿を見て、学園長もさすがに胸にくるものがあったのだろうか。


「リーや、うちの領地にある迷宮の探索許可をだしてやろう。いつでも遊びにいくといい」


「う? だったら薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ全員分を」


 おじさん、かわいらしくちょこっと要求してみた。


「かかか。まぁいいじゃろう。そのくらいどうとでもしてやろう」


 学園長とおじさんは二人して悪い顔で笑うのであった。

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