第270話 おじさんTRPGを作ろうと考える


 お茶とお菓子を楽しみながら、おじさんたちはあれこれと話す。

 話は尽きず、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 ただ薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの運営方針を巡って話しこんでいたのだ。

 必然的にいつものメンバーで固まることになってしまった。

 

 それが一段落ついたときに、ふと気づけば残りのメンバーが盛り上がっているではないか。

 場の中心にいたのは妹だ。

 

 先ほど寝落ちした妹がいつの間にかお茶会に参加していた。

 姉である超絶美少女おじさんと、よく似た顔立ちの妹に皆がメロメロである。

 その妹が場の中心にいて、一冊の本を広げていた。

 

 おじさんが発案し、トリスメギストスが作ったゲームブックである。

 妹が手にしているのは『冒険者ヴィクター』シリーズの一冊だ。


 この本、ひとつの結末を迎える度に選択肢の内容が変わる。

 おじさんとトリスメギストスが魔法でそう作ったのだ。


 話の本筋は変わらないが、選択肢や結果が少し違ったものになる。

 つまり何度も楽しめるローグライク的な本なのだ。 

 

「このさきのみちはふたてにわかれている。あなたはどちらにすすみますか?」


 妹が読み上げると、薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの面々が口々に言う。

 

“ここは右側に進むべきですわね”

“いえ、今度こそ左側でまちがいありませんわ”

“ここで引き返すというのもありでは?”

“ソニアちゃんはどっちだと思うの?”


「そにあはひだりだとおもう!」


 鶴の一声である。

 指定されたページを開くと、そこにはドラゴンの絵が描かれていた。

 

「どらごんのすみかにあしをふみいれてしまった。あなたたちはぜんめつした……」


“このいきなり全滅する感じはイヤですわね”

“ためが欲しいですわ”

“もう! ちょっと難易度高すぎない?”


 そんな声が聞こえてくる中、妹が立ち上がって声をあげた。

 

「ねーさま!」


 ててて、と走っておじさんに抱きつく。

 

「とりちゃんがいじわるする」


「まぁ。それはいけませんわね」


 おじさんはトリスメギストスを召喚する。

 クルクルと回る魔法陣から使い魔が姿を見せた。

 

「とりちゃん! ぜんっぜんたのしくないんだけど!」


『いや妹御よ、あれは現実に則してだな』


「たのしくないもん」


『楽しくないのは問題であるな』


 妹と使い魔の会話を聞きつつ、おじさんはピコーンときた。

 なにもゲームブックの形にこだわる必要はないのだ。


 そう、TRPGならもっと自由に遊べる。 

 前世のおじさんは独りでサイコロをコロコロしていた。

 友だちがいなかったから、本格的に楽しめなかったがTRPGは好きなのだ。


 TRPGとはテーブルトークRPGの略である。

 ゲームマスターとプレイヤーに分かれて行なうアナログなゲームだ。

 しかし、自由度がとても高く、皆でわいわいと話しながら進めていける。

 

「トリちゃん、ちょっとお話があります」


『嫌な予感しかしないのだがな、主よ』


「ソニア、少し待っていてください」


 おじさんが妹の頭をひとなでする。

 そして薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの面々にも断りを入れて席を外す。

 

「この感じ、リーが帰ってきたって思うわね」


 聖女が暢気に抹茶ラテを飲みながら言う。

 

「リー様のなさることに失敗はありませんわ」


 もはやアルベルタ嬢は狂信者のようだ。

 

「お姉さまがいるとやっぱり皆が明るくなるのです」


 パトリーシア嬢はケーキをつまみながら言う。

 その言葉に他の面々も大きく頷くのであった。

 

 一方でおじさんはと言うと、少し離れた場所で使い魔にTRPGの説明をしていた。

 

『なるほど。ルールブックで基本的な縛りをつけておき、その範囲でなら好きな行動ができる、と。うむ、ゲームブックよりも自由度が高そうで面白そうであるな』


「そうなのです。絶対に流行ると思うのです」


 娯楽として面白いのはもちろん。

 なんだったら教育にも役立つのではないだろうか。

 

『ふむ。ではゲームブックの設定を流用しつつ、我がルールブックとシナリオを作成すればいいのだな』


「お願いしますわ」


 ここにTRPG計画が発動した。

 おじさん、色々とやることが山積みである。

 今はお茶会を楽しみたい。

 そう思って、席に戻るのであった。

 

“そう言えば”と、おじさんは場に戻って言う。


「皆に食べていただきたいものがあるのです」


 その言葉に薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ全員が注目する。

 おじさんの目配せで侍女が動いた。

 

「なになに? めっちゃ気になるんだけど!」


 聖女が思いきり食いついてくる。

 

「今、運んでもらっていますから」


 お茶会の席にはふさわしくないと思う。

 だが、おじさんとしては食べてほしかったのだ。

 

 皆の前に漆器のお重が運ばれてくる。

 

「どうぞ、召し上がってくださいな」


「う、うう、ううう、うな重! いやっふうううううううう!」


 聖女がお重を両手で持ち上げている。

 

「リー様、とっても美味しゅうございます!」


 既に食べているアルベルタ嬢が言う。


「あああ! ちょっと待ちなさいよ! アタシも食べる!」


 賑やかである。

 わいわいきゃいきゃいと皆が笑顔をうかべている。

 その様子を見て、王都に帰ってきた、と実感がわくおじさんなのであった。

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