第261話 おじさん公爵家本邸にて平和な一日を過ごす


 領都にある公爵家本邸にて、おじさんは今日も今日とて開発に勤しんでいた。

 その成果を手にしたおじさんは叫んでいた。

 

「ついにやりましたわ! トリちゃん!」


『…………うむ。本当に作ってしまうとはな』


 おじさんが作っていたのは精霊の雫を使った魔力視眼鏡である。

 あれこれしているとサングラスのようになってしまったが。

 とりあえず祖母と母、そして妹の三人分はできた。

 これ以上作る場合は、トリスメギストスと要相談である。

 

「さっそく試してもらいましょうか」


『いや、ちょっと待て主よ。その山と散らばっている似たようなものはどうするのだ?』


 そうなのだ。

 開発の過程においてできた試作品の山がある。

 ざっと見積もって騎士団に配布できそうなほど。

 これらは魔力視ができなくても、別の機能が付与されていたりするのだ。

 

 最初は失敗した品だったのだが、途中でおじさんも面白くなってきた。

 そのため色んな能力が付与されたサングラスっぽい眼鏡が大量にあるのだ。

 

「どうすると言われましても。欲しいという者にプレゼントしますわ! ちょうどこの時期は遮光の効果があるだけでも嬉しいものですし」


『なるほど、な。祖父君にはどうするのだ』

 

「むふふふ。ちゃあんと考えてありますわ! では行ってきます!」


 上機嫌で部屋をでていくおじさんであった。

 途中で見かけた侍女に声をかけ、祖父母の居場所を聞く。

 すると、今はサロンで皆が集まっているとのことだ。

 

「ねーさま!」


 サロンに顔をだすと、妹が駆けよってくる。

 その小さな身体を抱きあげて、おじさんは祖父母の元へ。

 

「お祖母様、例の物ができましたの」


 正しく貴婦人といった風体の祖母が目を見開く。

 

「リー、本当に作れたのかい?」


 おじさんはコクンと首肯して色つきのレンズが入った眼鏡をとりだす。

 シャープな印象の眼鏡である。

 

「こちらを」


 さっそく着けてみる祖母である。

 

「ああ! これが、これが……」


 森羅万象にあふれる魔力。

 美しいと言わざるを得ない。

 魔導師である祖母にとって、それは新しい世界を見たのと同義であった。

 

「お祖母様、所有者登録をすませておいてくださいませ」


「ああ。もちろんだよ」


 どこか心あらずといった祖母である。

 

「お祖父様にはこちらを」


 祖母の様子をうかがっていた祖父にもおじさんは渡す。

 ティアドロップ型のサングラスだ。

 祖父がかけると、マフィアのドン的な風格がでる。

 

「お祖父様、魔力を流してみてくださいな」


 言われるままに魔力を流す祖父である。

 すると、人物の隣に小さな数字がでるではないか。

 

「ソニアが一万二千、メルテジオが一万八千、うん? アミラは五十三万。なんじゃこの数字は?」


「保有魔力を数値化するという、ちょっとしたお遊びですわ」


 魔力計測機能である。

 魔力の保有量だけがわかっても戦闘力の目安にはならない。

 なので、お遊びなのである。

 

「ほう。ハリエットは三百万を超えておるのか。…………リーちゃん? リーちゃんの数字がおかしいんじゃけどのう」


「…………恐らくは測定不能なのではないか、と」


 おじさん、ちょっとだけ言い難かったのだ。


「う、うん。だよね、そういうことってあるよね」


 祖父が頬をピクピクと引き攣らせた。


「あってたまるかあ!」


 祖母が祖父に突っこむ。

 

「ちょいと貸してみな、セブリル」


 強引に祖父から取り上げたサングラスをかける祖母だ。

 おじさんを見る。

 そして、大きく息を吐いた。

 

「さすが私の孫だ! リー!」


 祖母がおじさんの手をとって、ブンブンと振る。

 

「おじーさま」


 アミラが祖父の側にいて、袖を引っぱっていた。

 

「どうしたのじゃ?」


「アミラは本気だせば、もっといける!」


「本気じゃと?」


「うん、ねーさま!」


 アミラがおじさんを見た。

 どうやら魔力の供給をしてほしいようだ。

 おじさんは苦笑しながら頷く。

 

「はああぁぁああああ!」


 アミラが両の拳を腰のあたりにつけ、気合いを入れるような声をだす。

 おじさんからドンドン魔力が供給されていく。


「なにぃ!? 百万……二百万……三百万、まだ上がるなんて!」


 ノリの良い祖母がアミラを見ながら声をだす。


「ちょっと疲れた」 


 とすん、と祖父の膝の間に収まるアミラである。


「…………五百三十万。十倍にまで魔力があがるなんて」


「はああぁぁああああ!」


 目を輝かせたソニアがマネをしている。

 だが、魔力はちっともあがっていない。

 しかしそこはサービス精神がある祖母だ。

 

「バカな!? ソニアの魔力もあがっているなんて!」


“むふう”と満足そうな妹だ。

 そんな妹を見て、メルテジオが口を開こうとした。

 

「メルテジオ」


 が、先におじさんが弟の口に人差し指をあてる。

 そして優しく微笑む。

 

「…………わかった」


 少しだけ考えてから、そう言って頷く弟であった。

 

 そんな弟におじさんはプレゼントをする。

 弟妹組にはおそろいのサングラスと絵本のセットだ。

 サングラスをかけて、魔力を流すと絵が立体になって見える仕様である。

 

「うわー! なにこれ!」


 珍しく弟のテンションが上がっていた。

 

「にーさま、ずるい。ソニアも!」


「ん!」


 その日、夕食の席ではおじさん以外、全員がサングラスをつけていた。

 今日も公爵家邸は平和なのである。

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