第251話 おじさん邪神の使徒と対峙する



 レグホーン・クロウェア。

 邪神を信奉する者たちゴールゴーム三巨頭の一人である。

 王国にとっては、超がつく危険人物だと言えるだろう。

 

 それに相対するのは超絶美少女おじさんである。

 静謐とも言える空間に転移した二人は、巨大なステンドグラスの下で対峙していた。

 

「ここは……あのクソの臭いがプンプンしやがるなぁ」


 レグホーンが言う。

 

「もう逃げられませんわよ」


 おじさんは敢えて不敵な笑みを浮かべる。


「ハッ! 逃げる? このオレが、お前のような小娘相手に?」


黒閃光スレイ!】


黒閃光スレイ・改!】


 またもや二人の魔法が同時に炸裂する。

 そしておじさんの魔法が軽々と上回った。

 

「他の魔法は使えませんの?」


「……お前、あのクソの使徒か?」


 その瞬間、レグホーンの姿が消えた。

 そしておじさんの背後に姿を現す。

 だが、おじさんもまた短距離転移を駆使していた。

 

「なかなか面白いですわね。その魔法」


 おじさんは見た。

 それだけで十分である。

 なにせおじさんの目は神眼なのだから。

 

「キサマっ!」


 レグホーンは勘違いしていた。

 自身の移動魔法がパクられたと思ったのだ。


 だが、実際には違う。

 おじさんが使ったのは短距離転移だ。

 

かげを操り、かげの中を移動する。差し詰めかげ魔法といったところですか」


“おーほっほっほ!”と笑うのも忘れない。


「闇に隠れて生きる下賤の者にふさわしい魔法ですわね!」


 おじさん、実は悪役令嬢を演じるが楽しくなってきたところである。


「ああん!? 誰が下賤だ、ゴるぁ!」


「あなた以外にいまして? お・ば・か・さ・ん」


“きゃ。言っちゃった”と付け加えるおじさんである。

 どこで覚えてきたのか。

 かなりウザい。


「死ね、ゴるぁ!」


 四本の腕を振り上げ、おじさんに殴りかかろうとするレグホーン。

 フッと笑ったおじさんが短距離転移で、懐に潜りこむ。

 

「なにぃ!」


「隙だらけですわねぇ」


 おじさんの無寸勁が発動する。

 踏み込みと捻る動きで力を伝達して、肘の先から爆発させるのだ。

 

「ぐほぅ」


 おじさんの細い腕からは想像できない破壊力であった。

 肘を使った体当たりのようなものである。

 その衝撃はレグホーンとて、さらりと流せるものではなかった。


 膝をつき、腹を抱えるレグホーンである。

 頭の位置が下がったところで、おじさんは羽根扇で打擲ちょうちゃくした。

 もちろん魔法で強化した上でだ。

 ずがん、と派手な音を立てて、レグホーンの顔が床に埋まる。

 

「頭が高いのですわ」


 おーほっほっほ! と気分は正に悪役である。

 

「ぎ、ぎざま゙ぁあああああああ」


 レグホーンが四つん這いの姿勢で吼えた。

 スッと姿を消して、おじさんの左側面に現れる。

 同時に、四つの腕をいかした連撃を繰りだす。

 

 だが、おじさんはしっかりと見ていた。

 

「芸がありませんわね」


 襲いくる四本の腕を見極め、ひらりと舞うようにステップを踏む。

 ただ躱すだけではない。

 機を合わせて羽根扇で打ち落としていく。

 

 一通りの攻防が終わったとき、レグホーンの腕はどす黒く変色していた。

 それでも戦意は衰えていないようだ。

 

「がぁっ!」


黒閃光スレイ】を口から発動させる。


「詰まらないですわ」


 おじさんは羽根扇の一振りでかき消してしまった。

 

「ぎ、ぎざま゙ぁ! なぜオレの攻撃が通用しない!」


「弱いからに決まっているじゃあありませんか」


 首をこてんと横にしながら言う。

 おかしなことを言いますわね、という態度だ。

 

 おじさんを怒らせた方が悪い。

 今回は本気で怒っているのだ。

 ただし油断をしていた自分自身に対してだが。

 

 邪神を信奉する者たちゴールゴーム三巨頭だろうが、尊厳を折りにいくおじさんである。

 これ、人は八つ当たりと言う。

 

「もうお仕舞いですか?」


「ぐぞがああああああ!」


 もこり、とレグホーンの肩が盛り上がる。

 それと同時に腕が、足がボコボコと波打つ。


 ぱん、と音がして尻のあたりからモリモリっと大きくなった。

 それはまるでお漏らしをしたような膨らみ方である。


 レグホーンの頭から鶏冠がでて、顔が鶏のように変わっていく。

 

「たかが小娘に、このオレの本性を見せることになろうとはなぁ」


 鶏の頭に竜の翼、ヘビの尾。

 さらに黄色の羽毛。

 世に聞くコカトリスと相違ない。


「ああ! だからレグホーンなのですね」


 おじさんはハタと手を打った。

 偶然なのだとは思う。

 だっておじさんの前世にいた鶏の品種なのだから。

 

「ああン? なに言ってんだ?」


 コカトリスの姿に変容したレグホーンが言う。

 

「恐怖で頭がおかしくなっちまったか? 見ろ! 邪神様の力を得たこの美しい姿を!」


巨神の足踏みギガント・タイタン・フォール!】


「ぎいゃああああああ!」


 蛇の尾がぷちりと逝く。

 いきりたおした直後に、神の足に踏まれるコカトリスなのであった。


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