第249話 おじさんの祖父母が無双する


 公爵家別邸にある露天風呂である。

 転移陣を刻んでからと言うもの、毎日のように入りにきているのだ。

 それはおじさんだけではない。

 

 公爵家の面々も誰かがここにいる。

 特にお子様組はスライダーが気に入ったのか、今日も今日とてはしゃいでいた。

 

「ええい面倒じゃのう」


 トリスメギストスから説明を受けた祖父が、思いきり眉間に皺を寄せる。


「だが放置はできないねぇ」


 祖母が頬をつり上げるような好戦的な笑みを見せた。

 

「うちの寄子に手をだすなんて、無礼なめたことをしてくれるじゃないか」


 祖母の表情がとても獰猛な動物に見えるおじさんである。

 だからと言って、恐怖を覚えるようなこともない。

 

「わたくしが行って殲滅してきましょうか」


 おじさんの逆召喚があれば、明日にでも移動して殲滅できるだろう。

 と言うか、だ。

 わざわざおじさんが動かなくてもいい。

 バベルに任せておけば十分だろう。

 

「どうせなら私たちも動こうかね」


「うむ。久しぶりに大暴れといこうかのう」


「あんたはこの間、大口獣ウォーム相手に暴れたんじゃないのかい?」


「いや途中で飛翼獣ワイバーンがきたからのう。消化不良というやつじゃ」


「では三人で参りましょうか」


 と言うことで、おじさんたちは三人で動くことにした。

 今回は騎士たちも連れて行かない。

 サッと行って、サッと討伐して帰ってくるからである。

 

 翌日のことである。

 おじさんと祖父母の三人は宝石鉱山から少し離れた場所にいた。


 宝石鉱山のことを見たかったおじさんである。

 しかし、優秀な使い魔であるバベルは見つけてしまったのだ。


 宝石鉱山にほど近い場所で、魔物が活性化している場所を。

 その近くにおじさんたちは逆召喚で転移した。


 おじさんと祖母は動きやすい格好にマントを羽織っている。

 あの空調機能がついたものだ。


 祖父は前衛を担当するだけに革鎧姿にマントである。

 ちなみに祖父の獲物は大剣だ。

 それも身の丈を越えるような大きさの物を背負っている。 

 

「およそ二百ってところかい。ところどころ大きな気配があるが」


「なに、ワシとハリエットの二人でかかるなら物の数ではないわい!」


「お祖父様、わたくしが数に入っていませんわ」


 愛しい孫娘のプクッと膨らませた頬を突きながら祖父は言う。

 

「今回は譲っておくれ」


「リー、セブリルは孫に格好いいところを見せたいんだよ」


 身も蓋もないことを言う祖母である。

 

「そのとおりじゃ!」


 祖父はからかわれても動じない。

 逆にそこにのってくるのだから始末が悪い。

 

 おじさんは小さく息を吐く。

 と、同時に小鳥を召喚して飛ばす。

 

「魔物は首伸猿ですわね」


 体毛は濃い深緑。

 大きな個体で二メートルほど。

 筋肉質なので見た目はゴリラに近いだろうか。

 

 鈍重かと思いきや、意外と俊敏性が高い。

 見た目どおりに力も強く厄介な魔物である。


 またその名のとおりに首が伸びる。

 だいたい五メートルほど伸びて、噛みついてくるのだ。

 

「なるほど。ハリエット、いつものようにいくぞ!」


「ああ、後方からの支援は任せておきな!」

 

「ではお祖父様、お祖母様、御武運を」


 おじさんの言葉を合図に、二人が駆けだす。

 その速度はとても老齢の動きとは思えない。

 

 あっという間に接敵したかと思えば、遠間から祖母の魔法が発動した。

 周囲一帯を泥沼へと変える魔法だ。

 さらに祖父には移動支援系の魔法もかけている。


「テーク・マ・クーマ・ヤ・コヲン・テーク・マ・クーマ・ヤ・コヲン」


 祖母の詠唱が聞こえてきた。

 

「サリーの月庭に吹くメグの風よ、ララベルの魔弾よ、リーリカルの槍となりて我が敵を砕け!」


千槍の驟雨レ・イアース!】


 祖母の前に幾何学模様の魔法陣が出現する。

 その魔法陣から黄緑色の風の槍が次々と放たれていく。

 

「か……かっこいいですわ!」


 おじさんは魔法出現のエフェクトに感動していた。

 どうにも見るべきところが違う。

 

 祖母の放った魔法は面制圧のためのものだ。

 あらかた魔法が打ち終わろうというタイミングで祖父が駆けた。

 自慢の大剣にらせん状の魔力を纏わせている。

 

「リー! これがカラセベド公爵家相伝のひとつ、螺旋魔纏じゃ!」


 以前、おじさんに教えたときは手に纏わせていたものだ。

 それを武器にまで纏わせている。

 

 祖母の面制圧の魔法で数を減らした首伸猿。

 しかも膝下まで泥沼に沈んでいるのだから、碌に動けやしない。

 そこへ機動力を魔法で高められた祖父が突っこんできた。

 

 しかも恐るべき威力となった大剣を振り回しているのだ。

 ちょんぱされる猿に、胴体が泣き別れになる猿。


 祖父の大剣の前に抵抗できる猿は皆無であった。

 これ正しく無双である。

 

「ワハハハハ! どうした猿ども! 手応えがないぞ!」


「セブリル!」


 祖母の声がかかると同時に祖父が退く。

 そのタイミングで祖母が二射目を放っていた。

 

 大きく数を減らした猿たち。

 それでも生き残っているのが何体かいる。

 中でも特に巨体なのが、背中の毛が白く変色している猿だ。

 

 そいつが怒りからか、咆哮をあげた。

 だが、祖母の魔法の前にはどうすることもできない。

 また一体、一体と泥沼に沈んでいく。

 

 祖母の魔法が途切れそうになると、今度は祖父の出番だ。

 先ほどとは位置を変えて突進してくる。

 泥沼に足を取られることもなく、一陣の風のごとく血をまき散らす。

 

「うーん。わたくしの出番がありませんわね」


 おじさんは目の前で起こっている蹂躙劇を前にして呟くのであった。

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