第243話 おじさんお茶会で不穏な言動をする


 アメスベルタ王国の夏は暑い。

 ただおじさん的には湿度が低いので、さほどでもないと感じるのだ。

 陽射しそのものは強いのだが、日陰に入ってしまうと意外と涼しく感じる。


 本日のおじさんのお召し物も侍女が選んだものだ。

 白地に淡い青で描かれた花柄が入っている清楚なサマードレスである。

 おじさん、超絶美少女なので似合っちゃうのだ。

 

 公爵家本邸の庭にある四阿あずまやにて、おじさんはお友だちと対面していた。


 一人はルシオラ・ラヴァンディエ嬢。

 少し暗い色の金髪をハーフアップにしている。

 おじさんちの寄子である子爵家の長女だ。

 年齢の割には落ちついた雰囲気がある。

 

 もう一人はエンリケータ・ドーレス嬢である。

 こちらは明るい青色の髪だ。

 それを前髪ぱっつんで、頭の左右にお団子を作っている髪型だ。

 同じくおじさんちの寄子である男爵家の三女になる。

 少し小柄で、クリッとした目が猫のよう。

 

 時間よりも少し早めに到着した二人は、緊張した面持ちでおじさんと挨拶を交わした。

 持ってきた手土産も渡し、この場所へと案内されたのだ。

 

 おじさんたちの前には、桃とヨーグルトのソースを炭酸水で割った飲み物がある。

 お茶請けにはケーキやクッキーが用意されていた。

 

「ルシオラ嬢はエンリケータ嬢と仲がよろしいですの?」


 おじさんが飲み物に口をつけてから二人に質問する。

 ヨーグルトと炭酸の相性がいい。

 

 料理人たちが試行錯誤を重ねて、作ってくれた飲み物である。

 その努力が垣間見えて、おじさんもニッコリだ。

 

 二人が目を見合わせて、ルシオラ嬢が頷いた。

 

「ニネットとプロセルピナのように、特別仲がいいというわけではありませんの。実際、薔薇乙女十字団ローゼンクロイツに加入する前は同じ寄子同士ではありますが顔見知り程度の仲でしたわ。ですが薔薇乙女十字団ローゼンクロイツに加入してからは仲良くしていますの」


 ルシオラ嬢の言葉にエンリケータ嬢が頷く。

 

「そうですの。お二人でいらしたから仲がよろしいのかと思ったのです」


 ニコニコとしながら言うおじさんだ。

 一方の二人はと言うと、ガチガチに緊張していた。

 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツで、多少は慣れたとは言えだ。

 

 二人からすれば、政治的な立場を抜きにはできない。

 特に今は学園ではなく、領都にある公爵家の本邸だ。

 それが緊張に拍車をかけていた。

 

 そんな二人の様子を悟ったおじさんは、飲み物をすすめる。

 この味なら気に入ってくれるはずだ。

 

「ぶほっ」


 公爵家の面々は既に炭酸水に慣れていた。

 しかし二人は初めてだったのだ。

 緊張感も相まって、未知の刺激に対してつい驚いてしまった。

 

 それでも吐きだすような粗相はしまいとがんばる二人である。

 ただその姿がおかしくて、ついおじさんは微笑んでしまった。

 

「大丈夫ですわ、ゆっくりと口をつけてごらんなさい」


 その言葉どおりに少しだけ口に含んでみる二人だ。

 冷静になって味わってみれば、ヨーグルトの酸味と桃の濃厚な甘みがある。

 平たく言って、美味しいのだ。

 

「とっても美味しいです。リー様!」


 二人が唱和するように同じ言葉を言う。


「うちの料理人たちが作ってくれましたの。こちらのケーキも美味しいですわよ」


 季節の果物を使ったタルトだ。

 美味しい飲み物と食べ物があれば、つい手が伸びてしまうというもの。

 味わえば緊張もほぐれる。

 

「で、なにかありましたの? 用がなくてもいいのですが」


「あ、はい。実は報告がありますの」


 エンリケータ嬢が言う。

 

「リー様が不在の期間に薔薇乙女十字団ローゼンクロイツにケンカを売ってき……ひぅ」


 ケンカという言葉が聞こえた時点で、おじさんが眉をしかめたのだ。

 人形よりも整った顔の人間が不快な表情を見せる。

 それは怖さを伴うものだった。

 

「失礼しました。続きをお願いしますわ」


 表情筋だけで笑顔を作るおじさんだ。

 ただエンリケータ嬢は少し萎縮してしまったようである。

 後をルシオラ嬢が引き継ぐ。

 

「魔法戦術研究会の二年生がケンカを売ってきたのですわ。ですが学生会を通して、魔技戦を要求。圧倒的に勝ちましたので問題はありません。ただ、その後に急遽行われた学園長との魔技戦は、まったくと言っていいほど歯が立ちませんでした。その件も含めて後ほどアルベルタ嬢が詳しい報告書を作成されるとのことです」


「承知しました。よくやりましたわね、二人とも」


 おじさんは立ち上がって二人のもとへ行き、頭をなでてしまった。

 

「はふぅん!」


 謎の声をあげたエンリケータ嬢が顔を真っ赤にする。

 ルシオラ嬢は予想外のことに、完全に硬直してしまった。

 

「あうあう。で、でも! 私たちは魔技戦にでていないのですわ!」


 なんとか絞りだすように、エンリケータ嬢が言う。

 

「いえ、薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが勝ったのです。ですので皆の手柄ですわ」


 表情はにこやかだが、内心は憤慨しているおじさんだ。

 自分のことはどうでもいい。

 ただ、お友だちと作り上げた薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが虚仮にされたのだ。

 それが許せない。

 

 この恨みはらさでおくべきか。

 

 魔法戦術研究会。

 この瞬間に長い歴史に終止符を打つことが決定した……のかもしれない。

 

「それにしても……そうですわ! 卒業までにはに手こずらないようにしたいですわね!」


 超絶美少女のおじさんが満面の笑みを見せた。

 その笑みに気をとられて気づかない二人である。

 おじさんがとんでもない爆弾発言をしたことを。

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