第241話 おじさん領都に凱旋する


 なんだかんだで二日ほど、王都で楽しく過ごしたおじさんである。

 その後に転移陣を経由して、タルタラッカへと戻った。

 辻褄あわせのためにだ。

 

「いやぁよくあそこまで作りこんだものだな」


 タルタラッカの別邸にて、おじさんは祖父と顔を付きあわせていた。

 おじさんはジンジャエールを飲みつつ答える。

 

「精霊のお姉さまたちもお手伝いしてくれましたの。わたくし、ひとりでやったわけではありませんわ。それにまだ細部はこれからでしょう」


「とは言えだ。ここは人を呼べる。それに漆器といったかの。ヴェロニカに聞いたが、既に専売の許可も得たと言っておった。美味い酒もメシもある。ワシは引退したらここに住むぞ」


 うんうんと頷く祖父であった。

 おじさんが転移陣を作ったことで、どこに住もうと距離的な問題はなくなった。

 領都、そして王都まで一瞬で移動できるのだから。

 

 さらに言えば、シンシャを使った遠距離通話もあるのだ。

 公爵家における情報網の構築は、王国でも随一だと言えるだろう。

 なにせ根底からの技術革新があったのだから。

 

「お祖父様、そろそろ領都に戻られますか?」


 香茶を飲む祖父におじさんが問う。


「そうじゃのう。騎士たちも随分と温泉が気に入っておるようじゃが戻らねばならぬか」


「半分ほどは駐屯地に置くのもよろしいかもしれませんわね」


「ハリエットとも諮ったのじゃが、今回は全隊を率いて戻る。領都にて編成をし直すのがいいじゃろう」


 おじさんは祖父の言葉に頷いた。

 

「では本日中に出発されますか?」

 

「うむ。名残惜しいがそうしよう。領都に戻ればいつでも帰ってこられるしのう」


 と言うことで、おじさんたちはその日のうちに準備を終えて出立した。

 聖域があるお陰で魔物の数も減っている。

 なにかあれば公爵家の面子が出張ればいいだろう、との判断であった。

 

 タルタラッカから領都までは、馬車で三日ほどかかる。

 ただしこれは通常の移動速度での場合だ。


 行軍する人数が増えれば、移動の速度が落ちてしまうのも仕方ない。

 しかも騎士たちの訓練も兼ねて、移動途中にいた魔物も駆逐しているのだ。

 結局のところ、倍となる六日ほどかけておじさんたちは領都に帰りつく。

 

 立派な体躯をした白馬のエポナに乗るおじさんと、祖父が並んで先頭を行く。

 沿道には領都の民たちが集まり、口々に声をかけていた。

 

 もはや領都における名物のようなものだ。

 おじさんが超絶美少女なのだから仕方がない。

 ただ、おじさんは思うのだ。

 

 母親は領都で大々的に演奏会を開くと宣言していた。

 それが実現した場合、どんな騒ぎになるのか。

 

 まぁその間に色々とやることはある。

 おじさんに加え、母と祖母については魔楽器を演奏できる。

 あとは側付きの侍女くらいか。

 他にも数人は演奏できるものが欲しい。

 

 と言うことで、おじさんは逆召喚を使って、あっちこちに移動しまくっていた。

 昼間は騎士たちとともにアリバイを作り、休憩と称しては領都や王都に移動する。

 そして魔楽器の演奏を教えていたのだ。

 

 領主の館の前で祖母が出迎えてくれる。


「よく無事で戻ったね」


 茶番である。

 ほぼ毎日のように顔を合わせていたのだから。


「うむ。今回は騎士たちにもいい経験になった」


 祖母の言葉に祖父が返す。

 

「休ませてやりたいんだけどね。ちょっと執務室へきてくれないかい?」


“かまわん、かまわん”と快活に笑いながら言う祖父であった。

 そして騎士たちを解散させ、休暇に入らせる。

 

 おじさんはと言えば、祖父母とともに執務室だ。

 遠慮しようかと思っていたら、祖母に呼ばれたのである。

 

「リー、さっき王家から正式に返答がきたよ。殿下との婚約は破棄された」


 神妙な顔をして頷くおじさんである。

 本当はその場で踊りだしたいくらいの朗報であった。

 ただ喜んでしまうのは、さすがにマズいだろうと判断したのだ。

 しかし我慢しようとしても、頬がひくついてしまう。


「ほう。意外と決断が早かったのう」


「まぁあれだけやらかしたんだ。さすがに婚約したままではいられないさ」


“ただし”と祖母が付け加える。


「他のことについてはまだ保留状態だね」


「なんじゃ廃嫡にはせんのか?」


 祖父が明らかに不満そうな表情になった。


「子がいないんだから仕方ないさね」


「まだ若いんじゃから、作ればいいじゃろう」


「ああ、そこはもう大丈夫さ。ヴェロニカからの情報だから確実だね」


 おじさんには心当たりがあった。

 あのお薬である。

 王に対してお気の毒さまと思ってしまう。


「ほう。ならば時間の問題か」


 こくりと頷く祖母であった。

 そして、祖母がおじさんに目線をむける。

 

「リー、素直に喜んだらいい」


「はへ?」


 と気の抜けた声をだすおじさんである。

 

「さっきからぜんぜん表情が隠せてないよ。ニマニマしすぎさ」


「はう」


 言いながら、おじさんは自分の顔を手で触れてみる。

 確かに表情が緩んでいる気がした。

 

 それはそうだろう。

 おじさんにとって転生してから一番の懸念が解決したのだから。

 最高の形で、だ。

 

 だから、おじさんは取り繕うのをやめた。

 満面の笑みになって言うのだ。

 

“ありがとうございますわ”と。

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