第240話 おじさん王都のタウンハウスでライブをする
明けて翌日のことである。
結局のところ、おじさんは勘違いを勘違いのままにしておくことにした。
だって結果的には両手を挙げて歓迎したいものだったから。
おじさんたちは温泉郷の別邸で朝食をすませると、それぞれの帰路につく。
父親と母親は領都を経由して、王都に帰る。
祖母はお子様組と一緒に領都へ。
祖父はタルタラッカの駐屯地や、民間に開放する場所を視察することにした。
おじさんはと言えば、父母と一緒に領都経由で王都に戻っている。
目的はすっかり忘れていた使い魔たちと、スキンシップをすることだ。
撫でまくり、もふりまくる。
ついにはクー・シーが失禁するという失態を犯してしまう。
おじさんの愛情が深すぎた故だ。
ならば忘れるなという話でもある。
存分にもふもふを堪能したおじさんは大満足であった。
その後に家族用サロンにて、魔楽器を母親に披露する。
母親から請われたのだ。
「そうなのです。そこで魔力を加えて音をひずませると……」
母親の演奏するギターが、ぎゅいんぎゅいんと宇宙的な音を発する。
「ほおん。これ、とっても面白いわね、リーちゃん」
「でしょう。楽器はまだあるのですわ!」
ギターにベースにドラム、そしてエレクトーン。
おじさんは色々と魔楽器を宝珠次元庫から取りだしてならべる。
おじさんがドラムでどっぱんどっぱんとエイトビートでリズムを刻む。
そこにベースを気に入って練習していた側付きの侍女が音を絡めてくる。
さらに母親が覚えたてのギターで音をだす。
即席のライブだ。
なんだかんだでハイスペックなメンツである。
そのため母親のギターも様になっていた。
「これは……みなぎってくる感じがあるわね」
適当なところで切り上げる母親である。
それでも随分と気に入ったようだ。
「奥様、リー様の歌をお聞きになるのもおすすめですわ」
侍女が言うと、母親がおじさんを見た。
シンシャを使ってバンドを再現したものだ。
おじさんが軽く説明をする。
「え? シンシャってそんなこともできたの?」
サロンのソファで並んでいる六体のシンシャたちが飛び跳ねた。
“テケリ・リ、テケリ・リ”と言いながら。
「リーちゃん!」
母親の言いたいことはわかる。
今日はゆっくりしていいと言われているのだ。
だから時間はある。
「承知しました。では、準備をいたしますので少々お待ちいただけますか?」
と、おじさんは指をスナップさせて音を立てる。
それが合図になって、キラキラとしたエフェクトが走った。
イメージは魔法少女である。
しかしエフェクトが終わったあとにでてきたのは、ゴスロリ姿のおじさんであった。
「リー様あああ! ステキですうううう!」
側付きの侍女のテンションが一気にあがった。
「あら? そのお洋服もかわいいわね」
「お母様も着てみます? 錬成魔法でちょちょいですわよ」
「そうね、ちょっと着てみたいかも」
母親の言葉が終わると同時におじさんは錬成魔法を発動させる。
着ている服を錬成魔法にかけるという荒業だ。
しかし、今のおじさんに不可能の文字はない。
サクッと着ている洋服が錬成されたことに、その場にいた者は気づいていた。
“恐ろしく魔法の腕があがっている”と。
おじさんが母親用に錬成したのは、夏用とも言えるゴスロリ服だ。
レースを多用したもので透け感が強い。
ゴシック風ではあるのだが、大人っぽくシンプルなデザインでもある。
何よりも母親のスタイルの良さも相まって、妙に色気がある仕上がりになっていた。
露出は少ないのだが、陰影と曲線が妖艶さを醸しだしているのだろうか。
おじさんは首を捻った。
だが、母親の方は姿見で衣装を見て気に入ったようである。
「これいいわね。涼しいし、意外と動きやすいわ!」
これも商品化の流れだ、とおじさんは察した。
「まぁその話は後でいいわね」
母親の言葉に頷きつつ、おじさんはシンシャをセットする。
舞台も錬成魔法で整えてしまう。
そして、おじさんはエレクトーンを弾く。
この国ではピアノもあるのだから、エレクトーンくらいお手の物だ。
正確にはかなり違うものであるが、おじさんの手にかかればなんてことはない。
物悲しくも浮遊感がある旋律に、おじさんの歌声がのった。
「魂が癒やされるような曲ね」
シンシャはまだ音をだしていない。
新曲だからである。
おじさんはまた記憶から引っ張りだしてきたのだ。
歌詞はない。
あーああ、あぁあぁああと澄んだ声で歌うおじさんであった。
ホンの数分で一曲目が終わる。
ここからが本番であった。
おじさんは魔楽器をギターに持ち替える。
「いきますわ!」
おじさんの声とともに、侍女が手を突き上げて叫ぶ。
「リー様あああああ!」
そんな侍女にニッコリと微笑みながら、おじさんは歌った。
すべての演奏が終わってから、母親は言う。
「ねえリーちゃん、私も一緒に演奏したいわ!」
「では、どこかでお披露目なさるのですか?」
「そうね、領都の競馬場で大々的にやりましょうか」
おじさんはてっきり家族や使用人たちの前で演奏すると思っていたのだ。
いつも思うのだが、母親はスケールが大きい。
本質的には小市民なおじさんと違う点である。
ただ、この母親の思いつきは家族をまきこんで大きくなっていく。
それがおじさんにとって、どういう結果になるのかは神のみぞ知るのだろう。
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