第232話 おじさん祖母と母にガン詰めにされる


 おじさんは自分ができることが増えたのが嬉しかった。

 その力を使うのが楽しかったのだ。

 だから、ちょっとばかりやり過ぎてしまった。

 

 王都と領都をつなぎ、領都とタルタラッカをつないだ。

 さらには使い魔を使った掟破りの逆召喚である。


“リー様だから”という表情の使用人や騎士たち。

 そして魔法バカの祖母と母である。

 

 温泉でゆっくりしながら話をしたいと考えていたのだ、おじさんは。

 しかしそうはできなかった。

 

 祖母と母にガシッと腕を掴まれて、おじさんは連行されてしまった。

 タルタラッカに作った転移陣のある小屋にだ。

 

「で、どういうことかしら?」


 最初に口を開いたのは母親である。

 

「こんなに面白いことを黙っているなんて! リーちゃんをそんな子に育てた覚えはありません!」


 ずずい、と詰め寄ってくる母親である。


「リー、洗いざらい吐いておくんだね」


 いつもより厳しい目つきになった祖母が言う。

 

「わかってますわ! お母様とお祖母様包み隠さずお話ししますから」

 

『うむ。我の出番であるな』


 おじさんの隣にできる使い魔がでてくる。

 

『御母堂、祖母君。先に聞いておくことがあるのだがよいか?』


 トリスメギストスの言葉に二人の女傑が同時に首を縦に振った。

 

『正直に言おう。我は御母堂と祖母君にも真実を話す気はなかったのだ。それは人の身には余るやも知れぬことだからな。だが、ここで問おう、人の枠を超える覚悟はあるか?』


 その言葉に二人の女傑は同じ反応をとった。

 愚問だ――と笑ったのである。


『主の予想どおりだな。では、話そうではないか。精霊言語と主の魔力視について』


 こうしてトリスメギストスによる講義が始まった。

 その話がおじさんの魔力視に至ったときである。

 

「そんな楽しそうな能力があるなんて!」


「魔力が見えるねぇ……」


 おじさんの方を見る二人の視線が熱い。

 

『うむ、まぁこればかりは我にもどうにもならん』


「そこはわたくしがなんとかしますわ!」


 黙っていたおじさんが口を挟んだ。

 そうなのだ。

 どうせそうなると思っていたおじさんは、ずっと考えていたのだ。

 

『はははっ。主よ、冗談も大概にしてほしいものだな』


「冗談ではありませんわよ」


 おじさんの言葉に使い魔が、ふたたび乾いた笑いをあげる使い魔であった。


『冗談であろう? 冗談だと言ってくれないか?』


 そんな使い魔を見て、おじさんはこれ見よがしにため息をつく。

 

「わかっていませんわね、トリちゃん。それがあると知ってしまったのです。そうなったらなんとしても手に入れたいに決まっているじゃありませんか? いえ、手に入れたいと思わない方が理解できませんわ!」


『いや、しかし! あれは主上に――』


「わかっていますわ、トリちゃん。わたくしにだって変質させることはできません。ですが……」


『ですが?』


「目を変えられないのなら、外から機能を足せばいいのです! そう魔道具ですわ! しかも精霊の雫といううってつけの素材もありますし!」


 おじさんだからこその発想だろう。

 この世界には眼鏡がある。

 それはあくまでも視力の補強といった位置づけだ。

 

 だが、おじさんは知っている。

 眼鏡にはいろいろな役割をレンズに持たせられることを。

 その延長線上の発想なのだ。

 

 魔力が見える眼鏡を開発する、というのは。

 

『はぁ!? 魔道具!?』


 トリスメギストスが驚きの声をあげて考えこんでしまう。

 

『……できるのか。いや、精霊の雫を錬成して……ふふ。ははは』


 おじさんの発想によって着想を得たのだろう。

 トリスメギストスが大笑する。

 

『面白い、面白いな、主よ! ただし! 祖母君と御母堂の分だけだぞ!』


 余計な混乱を招きかねないからである。

 それも所有者の登録をさせて、他人に使わせないことが前提だ。


「将来的にはソニアも欲しがると思いますけど」


『む。妹御か、それは許可しよう』


「では、そういうことで話は決まりましたわね!」


『うむ。我も協力しようではないか。それは新たなる神遺物アーティファクトとなるやもしれんのだからな』


「ふふ、ヴェロニカ。これは楽しくなるよ」


 言葉とは裏腹に獰猛な笑みを見せる祖母である。


「そうですわね! 今までできなかったことができるんですもの!」


 母親も喜悦満面だが、どこか怖い雰囲気があった。

 

「他にもいっぱい紹介したいものがあるのですわ!」


 おじさんは王都を出発してから、色々な物を見て開発してきたのだ。

 シンシャを使って報告できることはしている。

 だが、それだけで話が終わるわけではない。

 

 おじさんたちの話は、いっこうに尽きないのであった。

 

 一方、王都にある公爵家のタウンハウスに帰ってきた父親は違和感を覚えざるを得なかった。

 

「アドロス、ヴェロニカはどうしたのかな?」


 家令に聞く。

 

「それが……お嬢様がお帰りになりまして」


 老齢の紳士はとても言いにくそうだ。


「は? そんな報告はうけてないけど」


「いえ……なんでも逆召喚を覚えましたとかなんとか仰いました」


「逆召喚? で、ヴェロニカと話こんでいるのかい?」


 家令は首を横に振って否定する。


「あの……邸の地下に転移陣を刻んで領都にむかわれました」


「はぁ? アドロス、冗談を言っているのかい?」


 額からにじむ汗をハンカチで拭きつつ、家令は言う。


「お父様がお帰りになったら、転移陣を使ってタルタラッカまでいらしてください、とことづかっております」 


 父親はしばらく無言であった。

 そして、おもむろに口を開く。


「なぁアドロス、うちの可愛い娘は王都を離れて一ヶ月も経ってないと思うんだ。この短い間に色々とありすぎじゃないか?」


「そこはもう……諦めるしかないかと」


「だよねー」


 父親はどっと増した疲労を感じつつ、家令とともに転移陣にむかうのであった。


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