第230話 おじさん逆召喚を覚えてしまう


『はぁ?』


 トリスメギストスは二つの意味で疑問の言葉を発した。

 ひとつは転移陣と精霊の雫を合成するという発想に。


 従来の術式では、外部の魔力供給源として使うのだ。

 しかし錬成魔法によって合成することで、より省スペース化を果たしている。


 また魔力の効率もかなり良くなっているのだ。

 恐らく高度に錬成魔法を極めた者にしかできない荒技である。

 

 もうひとつは逆召喚というとても胸騒ぎのする単語だ。

 賢明なる使い魔は、嫌な予感しか抱けない。


 一方でおじさんはと言えば、確信していた。

 シンシャとの繋がりを意識して、使い魔契約をしていないのに喚びだすことができたのだ。


 シンシャを作るのに大きく貢献していたのも大きいのだろう。

 だが、その逆もまたできると思うのだ。


 しかも使い魔が相手となる。

 使い魔との魔力の繋がりは今や視認もできるのだ。

 それをたどれば、自身を逆に使い魔の元に転移可能だと判断した。

 

「小鳥がタルタラッカに着きましたわね!」


『いや、主よ。本当に……』


「いきますわ!」


【逆召喚・小鳥ちゃん!】


 その瞬間、おじさんは小鳥の元に転移していた。

 ついでにトリスメギストスも、おじさんの隣にいる。

 おじさんが巻きこんだのだ。

 

『……もうなんでもあり、であるな』


「なんでもじゃありませんわ。できることしかできませんもの!」


 などと言いつつ、おじさんは先ほど刻んだ転移陣と対になるように術式を刻む。

 刻み終わると、実際に起動させてみると一瞬で景色が変わる。

 

「成功ですわね!」


 腰に手をあてて、ふんす、ふんすと鼻息を荒くするおじさんである。

 どうやらとても興奮しているようだ。

 

『主よ、バベルが領都についたようだぞ』


「むふふ。では、こちらに刻んでから本番と参りましょうか」


 おじさんは小屋の中に新たな転移陣を刻む。

 しっかりと精霊の雫も錬成して。

 

【逆召喚・バベル!】

 

 もはや懐かしさを感じる領都の公爵家本邸の庭であった。

 ちなみにバベルは姿を消している。

 つまり、おじさんがいきなり庭に出現したのだ。

 

「ねーさま!」


 ちょうど庭でお茶の作法を練習していた妹がいた。

 目ざとくおじさんを見つけると、席を立って駆けよってくる。

 

「ソニア、元気にしていましたか?」


 妹を抱きあげつつ、おじさんはお茶の用意がされた席につく。

 

「うん。にーさまも、あーねーさまも元気にしてる!」


 満面の笑みを見せる妹を抱いたまま、近況報告をしているとトリスメギストスが口を開く。 


『主よ、祖母君のところへ行かねば』


「そうですわね。ソニア、こちらはバベル。わたくしの使い魔ですわ」


 姿を消していた狩衣姿のイケメンが姿を見せる。

 

「はわわわわ」


 ワイルドな感じのお兄さんの出現に、妹はとまどってしまったようだ。

 

「ソニア、バベルと少し遊んでいてくださいな」


『ほほほ。妹御であるな、麻呂はバベルでおじゃる』


「そ、ソニアです」


 妹をおろしつつ、おじさんは侍女に祖母の居場所を聞く。

 今日は幸いにも本邸の方で執務をしているそうだ。

 

 そのまま侍女を伴って、祖母のもとに顔をだすおじさんである。

 

「リー! いったいどうやって?」


『祖母君よ、そこは我から説明したい』


 正直なところ、いくらおじさんの親族といっても話せることと話せないことがある。

 そこでトリスメギストスが話すことにしたのだ。

 おじさんだとボロがでそうだから。

 

 ごまかせるところはごまかす。

 しかし祖母は魔法バカなのだ。

 転移陣を刻めるようになったと言えば、どうなるのか。

 

「絶対に教えてもらうからね!」


 と言いつつ、祖母は先に立って使っていない公爵家本邸の地下室へと足をむける。


「ここなら実験に使っても問題ないだろうさ」


 祖母はそんなことを言いつつ、おじさんの一挙手一投足を見逃すまいとしている。

 

「では、ここに刻んでしまいますわね」


 おじさんは平常運転で、一瞬にして転移陣を刻んでしまった。

 

「な!? リー? その構築の速度は?」


「お祖母様、あとでゆっくりとお話ししますから」


 おじさんは母親と祖母になら、秘密を話しても問題ないと思っている。

 と言うか、絶対に納得しない。

 下手にごまかせない相手だというのは、トリスメギストスはわかっていないのだ。

 

「先に繋がっているのか試してみてくださいな」


 おじさんと祖母が転移陣にのって、魔力を流して起動させる。

 すると、小屋の中にいるのだ。

 

「成功ですわね。お祖母様、外にでてみてくださいな」


 祖母が外にでると見たことのない様式の館が建っていた。

 さらにお湯の流れる水路が張り巡らされた庭の風景にも驚く。

 

「ここは?」


「公爵家の別邸ですわ! 温泉に入り放題ですのよ!」


 祖母は思わず天を仰ぐ。

 そして腹の底から笑うのだ。

 おかしくて、おかしくてしかたがない。

 

 本当にスゴい孫だ、と。

 

「セブリルはいるのかい?」


「ええ、足湯を利用していましたわね。案内しましょうか?」


“お願いするよ”と祖母は大きく頷いた。

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