第227話 おじさん夢がひろがりんぐ
天空龍との一騒ぎ、おまけに水の大精霊まででてきてしまう。
色々と漏らしちゃダメな事情があったようにも思う。
なんだか面倒なことになりそうだ、とおじさんはゆっくり振り返る。
見れば、騎士や侍女たちは茫然自失となっていた。
祖父も同様である。
今はあまり刺激しない方がいいか、とおじさんは思った。
そこで祖父に提案する。
今日はもう野営地に戻りましょう、と。
精神的に疲れていたのだろう。
まだエンサタイ平原も抜けていない。
出発してから、さほど時間がかからないうち天空龍が襲ってきたのだから。
なんのために出発したのかわからない。
あの駄龍のせいで。
ふつふつと湧きあがる怒りを抑えつつ、おじさんはログハウスを取りだすのであった。
翌日の早朝から移動して、おじさんたちは無事にタルタラッカに到着する。
二日続けて天空龍に求婚されることはなかった。
心ここにあらずといった騎士や侍女たちも平常運転に戻っている。
半ば要塞と化した駐屯地で、騎士たちは暫しの休息を楽しんでいた。
すっかり、うどんにハマった副長が調理担当に駄々をこねている。
一方でおじさんたちはと言うと、東京駅をモチーフとした公爵家の別邸にいた。
こちらの別邸は純和風ではなく、外観にあわせて洋風になっている。
ちなみに温泉も別邸の雰囲気にあわせて洋風だ。
おじさん、映画で見たローマの温泉が気になっていた時期がある。
特にディオクレティアヌス浴場がお気に入りだった。
ローマの中心地にありながらも、比較的に建築物が残っているのだ。
その写真やローマ時代のイメージした絵などが、今もおじさんの記憶にある。
豪華絢爛な洋風の浴場と言えば、ディオクレティアヌス浴場なのだ。
さすがに記憶にあるものを、そのままというわけにはいかない。
なので、多少はアレンジをしているが、モザイク画などはしっかりオマージュしている。
おじさん的には渾身の力を注いだ浴場なのだ。
そんな浴場でゆったりと疲れを癒やすおじさんである。
肩まで湯につかりながら、ほへえと気を抜いているのだ。
『リーちゃああああん!』
そんなおじさんの前に姿を現したのは
「どうしたのです、ユトゥルナお姉さま」
『あれ? なんかちょっと変わった?』
「いえ、そんなことないですわ」
にこり、とおじさんは微笑む。
自身の目が神公認のチートと化したことなど言えるわけがない。
『リーちゃん、たすけてええ!』
などと言いながら、おじさんに抱きついてくるのだ。
相変わらず、ギリギリのラインを攻めるのが好きな
『ぜんっぜん遊べないの。あんなに遊べる場所がいっぱいなのに』
「と言われましても、わたくしにはどうしようもありませんわ」
『そこをなんとか!』
「ミヅハお姉さまにお願いしてみてはどうです? お休みをくださいなって」
おじさんの提案に
その表情は絶望に充ちたものだった。
だからと言って、おじさんにどうにかできるわけではない。
なので、話題を変えることにした。
「そう言えば、ユトゥルナお姉さまに聞きたいことがあったのです」
『あら? なにかしら? お姉ちゃんになんでも聞いてぇ』
姉とは頼られるものである。
そう信じて疑わない
「精霊の雫のことですわ。トリちゃんに聞きなさいと言われたのですが、機会を逃していましたの」
『うんうん。精霊のことならお姉ちゃんの方がよく知っているわねぇ』
「で、精霊の雫とはなんですの?」
おじさんの問いに
『宝珠と似たようなものね。一緒にするなあって怒っちゃう精霊もいるから迂闊には言えないけどぉ』
「なるほど。魔力の代わりには精霊の力? が蓄積されたものだと」
『そうそう。ただ宝珠よりも出力が大きいし、蓄積された力も段違いだから取り扱いには注意してねぇ』
「上位互換なのですね」
それだ、と言わんばかりに手を打つ
『その言い方はいいわねぇ。リーちゃんは精霊言語は習得してるぅ?』
「いえ、初めて聞きましたわ」
『なら精霊言語を教えてもらうといいわよぅ。できることが増えるわよぅ。本当ならお姉ちゃんが手取り足取り教えてあげたいんだけどなぁ』
ヘニャリと眉を下げる
対して、おじさんのアクアブルーの瞳が大きくなる。
「例えばどんなものがありますの?」
『転移陣とか……』
「転移陣が刻めるようになるのですか!」
『え? うん。そうだけどぉ……あっ! これ、もしかしてダメだった?』
しかし、今回はおとがめなしだったようだ。
ホッと胸をなでおろす
それとは対照的に、おじさんは目をキラキラさせていた。
「ユトゥルナお姉さま! 緊急事態が
『え? リーちゃん?』
へばりつく
マナー違反だが、そんなことは気にしていられない。
なにせ念願の転移陣が刻めるのだから。
さしあたって領都とタルタラッカを結ぶ。
なんだったらフレメアのいる港町アルテ・ラテンとも結んでもいい。
夢が広がりまくる案件だ。
とは言え、誰でも彼でも利用させるわけにはいかない。
その点の調整は祖父に丸投げだ。
「トリちゃん!」
おじさんは手早く侍女たちに着替えさせてもらうと、デキる使い魔を喚びつつ祖父の部屋に急ぐのだった。
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