第223話 おじさん魔力の根源を知る
おじさんたちが転移したのは、
トリスメギストスが
この場所であれば、邪魔は入らない。
また根源の法を授けるのにあたって他人に聞かれる心配もないのだ。
おじさんはバベルの張った結界の中にいる。
人の身では生きられない場所でもあるのだ。
『主よ、悪いのだが、先に言っておく。根源の法とは便宜上のものだ』
「な、なんですってえええ! ワ、ワクワクをっ! わたくしのワクワクを返してくださいなっ!」
プルプルと震えながら、粘度の高い目線を送るおじさんである。
“なにかあればやる”という不退転の決意が伝わってきて、トリスメギストスは慌てた。
『いや待て待て待て。あると言えばあるのだ』
「どういうことですの? きちんと説明してくださいな」
おじさんの言葉に気圧されてしまう使い魔である。
『う、うむ。そもそも魔力は万物に宿るものである。しかし、だ。
“なんというか”とトリスメギストスは少し言葉をためる。
『主や、御母堂、祖母君なんかは可視化できるまで魔力を高められる。そういうのは例外としてだ。原則として見ることはできん。だが我やそこのバベル、精霊たちなんかは違うのだ。魔力を視認できる』
「そうじゃないかなと思っていました」
『で、だ。魔力を視認できることの意味、主ならわかるであろう? 今でも主の魔力に関する感知能力は非常に高いと言える。だが見えるということとは違う』
「確かに魔力が見えれば、また違った扱いができるでしょうね」
おじさんは、うんうんと小さく頷いている。
『で、だ。もう察していると思うが、主の目を特別な物として主上が許可をくだされたわけだ』
「魔力も視認できる、と」
『そう。もともと主には魔力支配(極)が与えられておる。が、その目の能力は主自身がこれまでの人生で培ってきたものだ。前のものと合わせてな。よって誇るべきだと我は思う』
トリスメギストスがそこまで言うと、おじさんの周囲に神威の波動が顕現する。
その感覚におじさんは覚えがあった。
転生するときに包まれていた力だ、と。
「女神様、あのときはゴネてごめんなさい。わたくしは今、楽しくやっていますわ」
つい、パンパンと二拍二礼をしてしまうおじさんである。
かすかにだが優しい声で“よいのですよ”と聞こえた気がした。
そして、頭をなでられたような感覚があったのだ。
今生の人生は前ほど悪くはないのだから。
いいことばかりではないけれど、悪いことばかりでもない。
生きていてよかった、と思えることが多い。
そんな二度目の人生を与えてくれた女神への感謝の気持ちがある。
それを伝えられたことが嬉しかった。
どこか胸につっかえていた思いがとれて、おじさんは安心したのだ。
つぅと頬を涙が流れる。
『主よ……目を閉じるといい』
トリスメギストスの言葉に従うおじさんである。
おじさんの身体に神威の力が吸収されていく。
『ほほほ。主殿はこの力を余すことなく受けいれられるのでおじゃるか』
『馬鹿者、我らが主は主上の愛し子であるぞ』
なぜか自分のことのように誇らしげなトリスメギストスである。
『ほほほ。まったくひねくれておるのぅ。これが世に聞く、つんでれ、というものでおじゃろうか』
『バカっ! あ、主のためなんかじゃないんだからねっ! ってなにをやらせるのだ!』
仲の良い使い魔たちであった。
「トリちゃん、いつまで目を閉じていればいいんですの?」
『うむ。もうよかろうて。主よ、ゆっくりと目を開いてよいぞ』
おじさんがゆっくりと目を開く。
アクアブルーの瞳が、双瞳になっている。
が、それは少しずつ重なり、いつものおじさんの瞳になった。
「二重になっていましたが、いつもどおりになりました……わ?」
おじさんの目には魔力が見えていた。
ただ見えているだけではない。
バベルの張った結界の構成やら何やらまで見えてしまう。
「トリちゃん、バベル。あなたたちとの繋がりもまた魔力によるものなのですね」
そうおじさんの身体と使い魔たちと魔力のラインで繋がっているのだ。
他の使い魔たちやシンシャとの繋がりも理解できる。
『どうだ、主よ。魔力がどういうものか改めて認識できたであろう?』
「そうですわね。ここまではっきりわかると、いかに自分が甘かったのかわかりますわ」
おじさんが目で見て、確認しつつ魔力を練る。
それは今までにない速度であった。
【氷弾・改三式】
おじさんの周辺に氷弾がこれでもかと出現する。
さらにバベルの作った結界が、サラサラと溶けるように消えていく。
その魔力すら氷弾へと変換されるのだ。
「これが魔力支配の本当の意味ですのね」
おじさんは自分の周囲に張りつくような結界を展開していた。
魔力とその流れ、構成を把握しながら興味深く眺めている。
『あ、主殿……麻呂の結界』
「トリちゃん、撃ちますわよ」
『主よ、自らが研鑽し、主上が認めた力を試してみるといい』
スッとおじさんが指を前にだして言う。
【射出!】
音もなく無数の氷弾が消えた。
いや消えたようにしか見えなかったのだ。
それは狭間の世界という虚空に消えていく。
「面白いですわね。魔法がまるで手足のように使えますわ!」
おじさんの目がキラキラと光る。
「さぁ楽しみますわよ!」
その言葉にそこはかとない不安を覚える使い魔たちであった。
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