第221話 おじさん祖父との試合で開眼する


 明けて翌日のことである。

 思いつきで作ったログハウスが、思った以上に役立っていると思うおじさんだ。


 こんなに役立つなら、もう少しこだわってみてもいいかもしれない。

 なにせログハウスを作ったときよりも、できることの幅が広がっているのだから。


 そんなことを考えながら、おじさんは朝食後のお茶を楽しんでいた。

 暑くなってきたとは言え、食後はやはりホッと落ちつきたいのだ。

 

 この国で一般的なお茶は紅茶になる。

 他にも香茶かおりちゃというハーブティーも有名だ。

 ただおじさん的には珈琲も飲みたい。

 

 どちらかと言えば、前世では珈琲党だったのだ。

 だからいつかどこかで見つけたい。

 気候的にこの国では難しいのだろうか。

 

 そこで、ふと気づく。

 なぜ今まで思いいたらなかったのか。


 紅茶があるということは、だ。

 お茶の木があるわけである。

 

 緑茶もウーロン茶も同じ茶葉だったではないか。

 ただ発酵させる時間が異なるのだ。

 これはお茶の幅も広がるのでは、と思うおじさんであった。

 

 討伐の後始末といっても、さほどすることはない。

 現場を確認しに行った騎士たちが帰ってくれば、遊牧民たちに討伐完了の報告をすませるくらいだ。

 天幕の回収なども、騎士たちにとってはお手の物である。

 

 おじさんは軽く時間を持て余していた。

 そんな中、祖父から声がかかったのである。

 

「リー、ワシと軽く手合わせをしてみんか?」


「本当ですか!」


 おじさん、のりのりである。

 祖父もまた名が知れ渡った武人なのだ。

 手合わせをするチャンスなど、そうはない。

 

「魔法は抜きじゃぞ。さすがのワシもリーの魔法は手に負えんからな」


 呵々と大笑する祖父である。

 

「では、ちょっと着替えてきますわね」


 本日はスカート姿だったおじさんである。

 さすがにその格好では戦えない。

 

「お待たせしました、お祖父様!」


 うっすらと青みがかった銀髪をまとめ、動きやすい服装になったおじさんである。

 その超絶美少女っぷりに、騎士たちが顔を赤らめてしまう。

 

「うむ。そうした格好もよく似合っておるな、リー」


「ありがとうございますわ」


 おじさんと祖父との距離は三メートルほど。

 戦う気になった祖父と実際に対峙してみるとわかる。

 圧がスゴい。

 

「よし、まずは軽くいくぞ」


 祖父がぬるりとした重力を感じさせないような動きで近づいてくる。

 おじさんはと言えば、左半身を前にした半身だ。


 遠間から牽制するような祖父の蹴りがとんでくる。

 その鋭さは王太子の比ではない。


 風を切るような動きで、おじさんは退いてかわす。

 そのまま円を描くような歩法に移行する。

 

「円環を描く、か。不思議な体術じゃな」


 直線的で攻撃的な祖父の攻撃を、おじさんは躱し、いなす。

 それでも王太子のときのような余裕がない。

 

「スゴいですわ、お祖父様っ!」


 思わず、おじさんは叫んでいた。

 今まで相対してきた誰よりも恐ろしい。

 だが、それと同時に楽しかったのだ。

 

「もう少し強くいっても大丈夫じゃな?」


「もちろんですわ!」


 祖父の動きが一段と速くなる。

 おじさんですら、判断を間違えるとまともに攻撃を食らってしまいそうだ。

 得意の観察眼で祖父を見るが、あまりにも速い。

 

 速ければ速いほど、頭で考える時間がなくなる。

 余裕をもって対処できないのだ。

 

「リー! そこで退いてはいかん!」


 祖父の連撃の圧によって、おじさんは距離をとろうとしたのだ。

 だが、祖父はその隙を見逃さずに詰めてくる。

 おじさんの眼前で祖父の拳がとまった。

 いなすこともできなかったのだ。

 

「目がいいのだな、リーは。だがそれに頼ってはいかんぞ! 流れを見極めるのじゃ。その円環の動きを突き詰めよ。ひとつの拳、ひとつの蹴り、それらはすべて一連の流れの中にあるのじゃからな」


「はい、お祖父様!」


 おじさんはとてもいい返事をする。

 それを見た祖父が唇を三日月の形に変えた。

 

「もうひとつ上の段階にいくぞ、リーよ」

 

 祖父がおじさんにむかって拳を突きだしてくる。

 それを躱し、いなそうとして、おじさんの身体がぐるりと回転して宙を舞った。

 ちょうど祖父の腕を中心に一回転した形だ。


「ふぇええ?」


 かわいい声をだしつつも、おじさんは華麗に着地する。

 

「お祖父様、今のは!」


 おじさんが目を輝かせた。

 それは魔力をらせん状に纏わせたものである。

 いなした掌から魔力に絡めとられてしまったのだ。

 

「気づいたようじゃな」


 祖父の言葉にコクリと頷くおじさんである。

 そして、さっそく真似をしてしまう。

 

「こう……いえ、ちがいますわね。もっと密度を高めて……」


 おじさんの手足にらせんを描く魔力が纏わりつく。

“ハッ”と呼気とともに、掌底をつきだすおじさんである。


 しかし、しっくりとこないのか。

 首を傾げている。

 

「うん? ああ、そうですわ!」


 音にすれば、きゅいいいいん、であろうか。

 らせんを描く魔力が高速で回転する。


「さらに倍率ドン、で上乗せですわ!」


 おじさんの右手には火の魔力が、左手には水の魔力がのる。

 さらに右足には風の魔力が、左足には土の魔力が。


「まだまだ倍プッシュできますわね!」


 おじさんの右手が二重らせんを描く魔力に包まれる。

 赤い炎と白い炎が交互に回転する形だ。

 他の部位も似たようなものである。

 

「り、リーちゃん……!?」


 祖父が声を詰まらせる。

 その額からは汗がたらりと流れた。

 

「お祖父様! できましたわ!」


「う、うん。そうだね……」


 それは奇しくもカラセベド公爵家に伝わる相伝のひとつを、さらに進化発展させたものであった。

 おじさん以外、誰にも再現できそうにないけど。

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