第212話 おじさんがいない薔薇乙女十字団の挑戦


 アルベルタ嬢たちが学生会に赴いてから、二日後の昼のことである。

 おじさんと王太子が模擬戦をした練武場には、多くの観衆が集まっていた。

 

 なにせ噂の薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが、練武場に立つのである。

 いやがうえにも注目が集まったのだ。

 

 今回の魔技戦。

 誰がでるかで揉めに揉めた。

 当初は発端となったプロセルピナとニネットが最有力候補であった。


 しかし相手は三人なので、枠はあとひとつになってしまう。

 となると、おじさんがいない間の代理であるアルベルタ嬢で決まりかける。

 だが、待ったをかけた者たちがいた。

 

 聖女とパトリーシア嬢。

 そして三人以外の薔薇乙女十字団ローゼンクロイツメンバーだ。

 誰もが魔技戦にでたかったのである。

 

 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの威信をかけた戦いなのだ。

 それは絶対に勝たねばならない。


 いや、勝って当然なのだ。

 その内容が問われるというのに、尻込みする者は一人もいなかった。

 

 結局のところ、三つのグループにわけての勝ち上がり戦を行なうことにしたのだ。

 それぞれの勝者が代表になる。

 アルベルタ嬢、パトリーシア嬢、聖女の三人だ。

 

 順当に実力順と言えるかもしれない。

 だが、その勝ちは薄氷を踏むようなものであったと三人は自覚している。


 長期休暇前におじさんが言っていたことを思いだす。

“エーリカ、アリィ、パティの三人も油断はできませんわよ”と。


 練武場に姿を見せた薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの面々。

 皆が揃いの意匠が施されたマントを羽織っている。

 薔薇と十字のデザインだ。

 

 実は聖女がおじさんに内緒でこっそりとロゴを考えていたのである。

 薔薇と十字はいい。

 そこになぜかドクロを絡めようとするのだ。

 それで他の団員と揉めた。

 

 結果的にドクロを抜いたデザインが採用されたのである。

 聖女としては不満だったが、その方がいいと言われれば仕方がない。


 そしておじさんが帰ってきたときに、皆でプレゼントしようと考えていたのだ。


 ただ今回の魔技戦はちょうどいいタイミングだった。

 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツを見せつけるための場として。

 そこで一足早くお披露目することにしたのである。

 

 勢ぞろいした薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの対面に、対戦相手がでてくる。

 魔法戦術研究会の二年生だ。

 

 彼女たちはあえてケンカを売った。

 自分たちが薔薇乙女十字団ローゼンクロイツに入り、内部から牛耳るために。

 

 おじさんのことを知るのなら、それは無謀の一言しかないだろう。

 蛮勇というよりも、命を捨てるような行為である。


 だが、彼女たちは知らないのだ。

 それがいかに危険なことであるのかを。

 

「さて、誰から行きます?」


 アルベルタ嬢の問いに、“はい”とパトリーシア嬢が手をあげた。

 

「パティの次はアタシが行くから」


 聖女が言葉を挟む。


「承知しました。私が最後ですね。パティ、わかっているでしょうけど」


 言葉を切ったアルベルタ嬢に対して、パトリーシア嬢は大きく頷いてみせた。

 

「わかっているのです! めったんめったんのぎったんぎったんにしてやるのです」


 薔薇乙女十字団ローゼンクロイツ一同が首肯する。

 彼女たちの腹は決まっているのだ。

 十五倍返しなのである。

 

「さて、そろそろやるか!」


 いつの間にか練武場に姿を見せた、副会長ことシャルワールが声をかける。

 

「いってくるのです!」


 パトリーシア嬢が元気よく舞台の上にあがる。

 対戦相手はパトリーシア嬢よりも、頭一つくらい大きい。

 魔女のようなつばの広い帽子がトレードマークなのだろう。

 

「三対三の対抗戦だ。魔法戦術研究会が勝利した場合は薔薇乙女十字団ローゼンクロイツに加入する。薔薇乙女十字団ローゼンクロイツが勝利した場合は、三人の加入を今後一切断る。以上で相違ないか?」


 シャルワールに対して、パトリーシア嬢が口を開いた。

 

「提案があるのです!」


「言ってみ?」


「この戦い、そっちは一人でも勝ったら条件達成でいいのです。その代わり、私たちが三人全員勝ったら、魔法戦術研究会とは関係を絶ちたいのです」


 予定どおりの提案である。

 魔法戦術研究会がこれ以降も手をだしてこないとは限らない。

 なので条件を変更したのだ。

 

 もちろん相手が自分たちを侮っていることも計算ずみだ。

 ――三人全員が勝つ。

 それも折りこんでの挑発であった。

 

「ほう。どうするんだ?」


 シャルワールが二年生の一人に視線をやる。


「ふん、下級生のくせにずいぶんな物言いですわね。よろしくってよ。その提案飲みましょう」


「では、条件はパトリーシア嬢の言ったものに変更する。いいな?」


 最終確認に二人が頷いた。

 シャルワールは舞台の端に移動して、試合の開始を告げたのである。

 

「お姉さまを侮辱したこと、後悔させてやるのです!」


 その声とともに、パトリーシア嬢は挨拶代わりの魔法を放った。

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