第204話 おじさん温泉地で遭遇する
村長から指定された新しい村の場所は、徒歩で二十分ほどの場所である。
温泉地、駐屯地とはちょうど三角形になるような位置だ。
ここに村を移設する。
もはや村人の理解の範疇を超えた魔法の宴であった。
『主よ、今の魔法の使い方はよかったな』
「でしょう? ちょっと工夫してみましたの」
一時間もかからず、おじさんは村を作り上げてしまう。
しかも住んでいた家まで移築したのだ。
さらには漆器作り用の施設まで作ってしまった。
おじさん自慢の魔道具が満載された施設だ。
さすがにこの施設は、セキュリティが必須になる。
そこでトリスメギストスの出番だ。
独自の術式を組んだ登録式の結界を張る。
この結界の管理者は、村長と木地師の代表の二人だ。
「使い方はあとで説明をしますわ。皆はまず家の確認を。さぁ温泉地を大開発しますわよ!」
ようやく本命である。
おじさんは張り切りに張り切っていた。
今も壁付きの回廊を作りながら、温泉地へとむかっている。
『主の魔力はいったいどうなっておるのだ?』
「さぁ? 最近は使っても使っても減った気がしませんわね」
『他になにか気づいたことはないか?』
「妙に魔力がなじむような感覚がありますわ!」
『ふむぅ。そうなのか』
「なにか気になることがありまして?」
『いや、主の魔力量は底がないと思っておるだけだ』
本当は気になることはある。
が、トリスメギストスは言わずにいた。
それは言っても仕方のないことだから。
しばらく歩いていると、温泉地に到着する。
幅が三メートルほどの川が流れていて、緑にあふれた場所であった。
『主よ、あの川のほとりにある水たまりだ』
「あそこから湧いているのですか」
見れば川から水が入いることで温度が下がっているようだ。
近寄って手をつけてみると、少しだけピリピリとしたような感じがある。
ちょっと温いかな、という温度なので、四十度弱かと当たりをつけるおじさんだ。
「この景観は残しておきたいですわね」
『どうす……主よ、下がれ!』
トリスメギストスが叫んだ。
その瞬間、おじさんの身体は後ろに跳んでいた。
侍女と騎士たちが瞬時に戦闘態勢に入る。
流れる川の水面に魔力が渦巻く。
キラキラと輝く魔法陣が描かれて、水面が盛り上がった。
そのまま人の形をとる。
「
侍女が小さく呟く。
人の形をとったそれは美しい女性の姿をしていた。
ただしなぜか背中に亀の甲羅がある。
頭頂部に皿がないだけマシだろうか。
水面から少し浮いた状態で、
『あなたは何者ですか?』
その言葉はおじさんにむけたものであった。
「わたくしはリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ。何者かと問われると返答に困るのですわ」
おじさんが前にでて、
が、当然そんな答えを求めていたわけではない。
そこでおじさんの隣に浮いていた、トリスメギストスの宝石が明滅する。
『
『
『そこな人物は我が主でな。そなたの疑問には我が答えよう』
『わかりました』
『主よ、悪いが少しこの場を離れるぞ』
言い残して、トリスメギストスが
そして、ペカーと光を放った
「なんだったのでしょう?」
おじさんは気楽な感じで声を侍女に声をかける。
しかし侍女はまだ緊張がとけないようだ。
騎士たちも同様である。
この世界における精霊は大きくわけて二種類存在する。
ひとつはおじさんが疑似召喚魔法のときに契約できるようにした低級の精霊だ。
世界に偏在する魔力が凝り、そこから生まれる。
この精霊が成長したものが中級に分類されているのだ。
一方で上級以上の精霊は神の代行者とされる。
神によって作られ、地上に降りられない神に代わって管理を担う者だ。
よって中級以下の精霊とは存在の格がちがうのだ。
滅多なことでは人の前に姿を現すことがなく、中級以下の精霊たちを統率する者でもある。
この世界に暮らす者にとっては、ある意味で神と等しいとも言えるだろう。
実際に精霊と近しい種族は、上級以上の精霊を信仰している。
そんな存在が目の前にでてきたのだ。
身動きがとれなくなったとしても不思議はない。
さらに言えばである。
その魔力によって、身動きがとれなくなってしまったのだ。
おじさんには効果がなかったけど。
「お、お嬢様は大丈夫なのですよね?」
少し回復したのであろう侍女が聞く。
「なにがですの?」
けろりとしたおじさんを見て、侍女たちは心が軽くなった。
もちろんのこと、おじさんだってこの世界における精霊の扱いは知っている。
その上で、平然としているのだ。
「トリちゃんが帰ってくるまでお預けですわね」
ニコッと微笑むおじさんだ。
その笑顔に魅了され、強烈な
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