第203話 おじさんタルタラッカを開発する


 その夜、村長から村の開発移転計画の了承が告げられる。

 三日も待つことはなかったようだ。


 おじさんはと言えば、村に戻ってから魔道具作りにいそしんでいた。

 その成果もあって、タルタラッカ開発計画が一気に進むことになる。

 

「ふひひひ」


 自身が作った魔道具のデキに、思わず不気味な声をだすおじさんであった。

 

 翌日の朝。

 朝食を終えたおじさんは、トリスメギストスを召喚して村の前に立っていた。

 

「今日は思う存分に魔法が使えるのですわ!」


 少し青みがかった銀色の長い髪が風に揺れる。

 意思の強そうなアクアブルーの瞳が、キッと温泉地の方向を見据えていた。

 神による造形と言われても、誰も疑わないその容姿。

 

「トリちゃん、補助をお願いしますわよ」


『心得た!』


 既に騎士たちの数人が顔を青ざめさせている。

 他方で侍女たちと言えば、おじさんの超絶美少女っぷりにうっとりとした表情だ。

 

「いっきますわー!」


 おじさんが魔力を高速で循環させていく。

 その膨大な魔力を完璧に制御した上で、地面に両手をついた。

 

「はいやー」


 地面がボコボコと隆起し、あるいは陥没していく。

 とりあえず、現在村がある場所と野営地をひとつにまとめる感じである。

 ここに防衛施設を作ってしまうのだ。

 

 空堀と塁壁を作り、物見櫓まで作ってしまう。

 なにはともあれ温泉地の安全面を確保しなくてはいけない。

 

 おじさんは次々に魔法を発動させていく。

 そのすべてが大魔法なみの規模なのである。


 魔力? 減っていませんわ?

 と涼しい顔をしているおじさんだ。

 

 おじさんは自然を操る魔法とすこぶる相性がいい。

 いや相性の悪い魔法がないのだが、その中でも特にという話である。

 それこそ自然がおじさんに頭を下げるように魔法が発動していく。

 

「次、いきますわよ!」


 駐屯地のガワを作り上げたおじさんは、入り口から中へと入っていく。

 村人たちの家については、すべて宝珠次元庫に収納してしまう。


 地面をならすと、建物がポコポコと生えてくる。

 おじさんの魔法だ。

 施設と住居が一気にできあがる様を見て、騎士たちはドン引きである。

 

「ゴトハルト! 細かい部分はあとで調整してくださいな」


“かしこまりました!”と隊長が返答をする。


 駐屯地から温泉地までは壁がある回廊でつないでいく。

 

「トリちゃん! 漆を移しますわよ!」


『うむ! 既に準備は整えておる』


 村人からすれば、大量の毒の木が宙に浮いて移動しているのだ。

 その様子に村の古老が、指さしながら叫ぶ。

 

「ゴールゴームじゃああ! ゴールゴームのしわざじゃああ!」


 いや、超絶美少女おじさんの仕業である。

 しかし古老には理解できなかったようだ。

 

 この地方に伝わる伝説のようなものだろうか。

 おじさんはそんな風に思いながら、漆の木を移植していく。

 

 きれいさっぱりとなったところで、温泉地の開発といきたいがそういうわけにもいかない。

 先に村を移設してしまう必要がある。

 

「お嬢様、そろそろ休憩をいれませんか?」


 おじさん夢中になっていたが、けっこうな時間が経過していたのだ。

 太陽が中天にかかりそうな時刻である。

 そこで昼食をとることにした。

 

 本日の昼食は駐屯地で、村人たちが作ってくれている。

 この地方における伝統的な料理だ。

 

 イモを蒸して潰し、少量の塩とまぜたものが主食になる。

 要はシンプルすぎるマッシュポテトみたいなものだ。

 

 それに塩と香草で肉を焼いたものを合わせただけのシンプルな昼食だ。

 素朴な味付けだが意外と美味しい。

 

 特におじさんが気に入ったのが、ピリピリという唐辛子を使った調味料だ。

 ちゃんと旨みがあって、辛みもある。

 タバスコに似たようなものだ。

 

 世界が変わっても辛いものをピリピリと呼ぶ。

 そこをおじさんは面白く思う。

 

「美味しかったですわ」


 ニコリと笑顔を見せるおじさんに、村の女衆から声があがった。

 お返しとばかりに、デザートを提供する。

 おじさんが宝珠次元庫に収納しているものだ。

 

 王都で販売されているケーキである。

 全員が食べても余りがでるほどの量を、おじさんは提供した。

 しかし、男性陣がおかわりをすることはなかったのだ。

 

 女性陣の圧力がとんでもなかったからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る