第202話 おじさん本領を発揮する
おじさんはシンシャのとった行動の意味がわからない。
首を捻っていると、シンシャから驚きの声が聞こえてきた。
「え? シンシャ?」
母親の声である。
「なんだい? このきれいな箱は?」
こちらは祖母のものだ。
全にして一、一にして全のシンシャである。
シンシャが飲みこんだものは、他の身体へと移すこともできたのだ。
その事実を理解したおじさんは、シンシャをなでる。
「お祖母様、お母様、そちらは新しく開発した特産品ですわ!」
「リーちゃん! これもらっていいの?」
母親の声に“どうぞ”とおじさんが返答する。
「リー。これが言っていた漆というものかい?」
「そのとおりですわ」
期せずして、祖母と母の笑い声が重なった。
「リーちゃん、量産はできるの?」
母親の問いかけにおじさんが返答する。
「わたくしの場合は、魔法でなんとかなりますの。でも、職人が作る場合は環境を整えておく必要がありますわ」
シンシャに合図を送って、残っていた物も転送してもらう。
「こっちの色もいいわね」
後から送った方は朱色の漆器である。
「お父様とお母様、それにお祖父様とお祖母様にと思いまして」
「リー、すぐに人を送るから生産体制をしっかり作るんだよ」
「リーちゃん、王家の紋章をいれた物も作れるのよね。お義母様、専売の許可をもらってきますわ!」
「任せたよ!」
シンシャが大活躍である。
遠く離れた王都と領都で、祖母と母親の二人が連携をとれるのだ。
便利すぎる黒銀のスライムは、おじさんに甘えるように身体を寄せてくるのであった。
明けて翌日のことである。
朝食を終えたおじさんはお供を引き連れて、村の周囲を散歩していた。
特に目的はない。
ぶらぶらとしつつ、あれこれ考える。
源泉の温度によっては、蒸し野菜や温泉タマゴが作れるとか他愛のないことだ。
他にもどうやって漆器を丸投げしようかとも考えていた。
確か漆器作りには高温多湿な状況が良いという記憶もあった。
漆は乾燥して固まるのではなく、成分が変化して固まるのだ。
そのため漆を乾かすには、湿度と気温が重要だったと思う。
とは言え、細かい数字を覚えていないのがおじさんクオリティなのだ。
そこへ村の方から人が何人か走ってくる。
騎士と侍女がおじさんをかばうように動く。
「お嬢様っ!」
村の木地師たちであった。
走ってきた勢いそのままに膝をつく。
スライディング正座である。
「あの器を作るところを見せてもらえないでしょうか?」
代表して一人が頭を下げる。
「かまいませんが……わたくしは魔法で作ってしまいますわよ。魔法抜きとなると、あなたがたの試行錯誤が必要になりますわ」
「お願いします。この、この器を使って見せてください」
代表の木地師が背中に背負った籠から、少し大きめの木皿を取りだす。
騎士のひとりが受けとり、安全を確かめてからおじさんの手に渡る。
「いいでしょう」
おじさんは腰のポーチから、宝珠次元庫を取りだす。
さらに素材となる塗料化した漆に、金を用意した。
「いきますわよ!」
パチン、と指をスナップさせて錬成魔法を発動させる。
すると素材が光に包まれたかと思うと、一瞬にして漆器ができあがっていた。
「はへえ!」
「塗料を塗って、乾かす。この行程を魔法でするのですが……覚えますか?」
いともたやすく行われたおじさんのえげつない魔法に目が点になってしまう木地師たちであった。
「お嬢様、それは難しいかと愚考します」
護衛の騎士がひとり、おじさんに意見を言う。
「なぜですの?」
「恐らくは錬成魔法の修練に耐えうる魔力がないかと」
「そうなのですか。その辺の問題も追々解決していきましょうか」
魔法が使えなければ、魔道具を使えばいいじゃない。
おじさんは実にいい笑顔をうかべていた。
「村に戻りますわよ! やることができました!」
侍女は思った。
目をキラキラさせるお嬢様、ステキと。
主従ともにどこかネジが外れているのであった。
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カクヨムコン8にてCW漫画賞を受賞しました。
なにぶんリアルが忙しくて時間がありませんので、こちらでかんたんに。
拙作を応援してくださった皆さんには感謝しかありません。
ありがとうございます。
コメントや応援、レビューにフォローといつも励まされています。
いずれ改めて近況報告にてお礼を書かせていただきます。
本当にありがとうございました。
鳶丸
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