第186話 おじさん思わぬかたちで技術を発展させてしまう


 祖母にぎゅうと抱きしめられるままのおじさんであった。

 しばらくそうしていると、ドアをコツンコツンと叩く音が聞こえる。

 侍女や執事がノックしている音ではない。

 

 不審に思いつつおじさんがドアを開けると、そこには身体の一部を伸ばしたシンシャがいた。

 

「テケリ・リ、テケリ・リ」


 鳴き声をあげながら、部屋の中に入ってくる。

 おじさんが抱き上げて、ドアを閉めた。

 

「どうしましたの?」


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 おじさんの胸に抱かれたシンシャが作業机の上にあった素材に身体を伸ばす。

 そのまま素材を身体で覆ってしまうと、一瞬で吸収してしまう。

 

「テケリ・リ、テケリ・リ」


「ん? 魔力が欲しいのですか?」


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


「お好きなだけどうぞ」


 おじさんが魔力を供給してやると、シンシャがペカーと光る。

 光が収まると、鶏卵大だったサイズがソフトボールくらいになった五体のシンシャがいた。

 

「あら? 増えましたわね」


「あら? 増えましたわね」


 五体になったシンシャがおじさんの言葉の真似をする。

 しかも芸が細かいことに声色まで真似をしているのだ。

 

「あら。あらあら?」


「あら。あらあら?」


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 おじさんは面白がって、シンシャの真似をしてみる。


「テケリ・リ、テケリ・リ」


 シンシャはきちんと返してくる。

 

「リー、これはどうなっているんだい?」


「リー、これはどうなっているんだい?」


「シンシャ、ちょっと真似をするのは止めてくださいな」


「テケリ・リ、テケリ・リ」


“了解”とばかりに五体の黒銀スライムが、ピョンピョンと上下に飛び跳ねる。

 

「素材と魔力を取りこんで進化したのかもしれませんわね」


 んん、とうなり声をあげる祖母である。

 

「魔物の進化か」


『主よ、シンシャの魔力の流れを観察しておったのだがな、実に面白いことがわかったぞ』


“ほう”と声をあげたのは、おじさんではなく祖母であった。


『論よりもやってみせた方が早いだろう。主よ、部屋の外にでて、一体のシンシャに真似をさせてみるといい。祖母君は部屋の中に残っていて欲しい』


 トリスメギストスの言うとおりに部屋の外にでるおじさんである。

 なんだかんだ言っても信用しているのだ。

 

「トリちゃん、お祖母様」


 部屋に残された四体のシンシャが同時に声をだした。

 

『うむ。やはり睨んだとおりである』


「うむ。やはり睨んだとおりである」


 トリスメギストスの声音を四体のシンシャが真似をする。

 

「スゴいですわ! トリちゃんの声が聞こえてきましたの!」


 間を置かずにおじさんの声を真似するシンシャたちだ。

 そのタイミングで、おじさんがドアを開けて入ってきた。

 

「トリちゃん、これは大発見ですわね! あとはどの程度の距離を離れても有効なのかですわ!」


『恐らくだが、距離は関係ないと考える。そやつらは一にして全であり、全にして一なのであろう』


「個体であって大きな群れの一部? ということですの?」


『そもそも一体の本体から分裂して、また分裂したというのであろう? その可能性が高い』


「リー、王都にも本体がいたはずだね?」


「そうですわ! シンシャ、王都の本体にも真似をさせることができますの?」


 おじさんの問いにイエスと答えるように、シンシャが上下に飛び跳ねる。

 

「では、今から王都の本体にも真似をさせてみてくださいな。いきますわよ!、お母様、聞こえますか?」


 少しの時間差があって、五体のシンシャから母親の声が聞こえた。


「え? 今、リーちゃんの声がした?」


“きゃー”とおじさんは喜びの声をあげる。


「リー、こりゃあとんでもない発見だよ!」


「え? お義母様の声? いったいどうなってるの?」


「ヴェロニカ、聞こえるかい? シンシャにむかって話しかけてみな」


「え? お義母様? リーちゃんも? え? どういうこと?」


「お母様、リーですわ。シンシャがちょっと進化したようですの。それでシンシャを使って離れた場所でもお話できるようになったのですわ!」


「え? 進化? ちょっと待って。なにそれ!」


 おじさん、偶然の産物だがやってしまった。

 遠距離通信手段を作ったのだ。

 電話である。


 細かく調べたいことはまだまだある。

 あるが、この発見は大きい。

 秘密裏に遠距離と連絡がとれるのだ。

 ある意味で時代を先に進めたとも言えるだろう。

 

 この発見に魔法バカが喜ばないはずがないのである。

 そして王都と公爵領という遠距離にて、三人の魔法バカは盛り上がるのであった。

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