第187話 おじさん競馬場でお披露目される


 シンシャが進化した。

 そのことで擬似的な電話のような仕組みができあがってしまったのだ。

 本体を含めて、六体のシンシャはそれぞれに通話ができる。

 全体で同じ会話を共有もできるし、個別での通話もできたのだ。

 

 とても便利なシンシャである。

 おじさんはご褒美にと魔力を十分に与え、シンシャもご満悦であった。

 

 とはいえである。

 こんな便利な物をどうするのか問題だ。

 その辺はおじさん、ノータッチである。

 

 とりあえずは公爵家で運用してみて、不都合がないか確認中だ。

 その後で王家と他の公爵家には情報を共有することで話は落ちついた。

 

 シンシャの問題が落ちつき、競馬場の細かな部分の手入れも祖母の指示で行われる。

 これについては騎士団がかなり張り切ったようだ。


 騎士団は努力をしているが、その成果を人前で披露することはない。

 なにせ魔物の討伐が主な仕事だからだ。

 領内の治安維持については衛兵隊の仕事である。

 つまり競馬場での競争は、鍛えてきた馬術のお披露目する場なのだ。

 

 おじさんはと言えば、領都の公爵家邸で色々と魔道具やらを作っていた。

 それに加えて弟妹たちとの時間も大切にしたのだ。

 けっこう忙しい日々を送っていたおじさんである。

 

 その成果は十分にでたと言えるだろう。

 なにせシンシャを使って母親とも連絡をとりながら魔道具を作成したのだから。

 おじさんが競馬場を作ってから、七日ほどの後のことである。

 

「リー、明日はお披露目会だからね」


「かしこまりました。ところでお祖母様、競馬場の方は大丈夫でしょうか?」


 そう言うと、祖母はニヤリと猛獣のような笑顔をみせた。

 

 おじさんが提案したのはギャンブルである。

 お馬さんが走るところを公開すれば、いつかは必ず賭け事が始まるのだ。

 であるのなら、先んじて公爵家が取り仕切ってしまえばいいと考えた。

 

 ただしおじさんが知る競馬のように多様な賭け方はできない。

 一着になる一頭をあてる単勝のみの扱いである。

 計算が複雑になるのが大きな原因だ。

 

 ここで重要なのがテラ銭の導入である。

 賭け札の一部をあらかじめ徴収し、残りを勝った者に配当する仕組みだ。

 いわゆる場所代を導入することで、絶対に胴元が負けることはない。

 

 この競馬に関する魔道具をおじさんは作っていたのである。

 ちなみにルール作りやら、貴族に対する対応などは祖母任せだ。

 祖母は“久しぶりの大商いだ”と大笑いしていたが。

 

 いずれは他の領地にも広まっていくのかもしれない。

 だが先んじて作った利は大きいのだ。

 

 明けて翌日のことである。

 競馬場までの道は冒険者ギルドが独占的に護衛の仕事を請け負うことになった。

 大型ショッピングモールに付き物のシャトルバス的な発想である。

 これにて安全に領民たちも移動できるという話だ。

 

 もちろん自力で移動できる者もいれば、ギルドが護衛する馬車の後ろをついていくという者たちもいた。

 その辺は最初から予想されていたので、お目こぼしを受けているが。

 

 何はともあれ天気は快晴。

 競馬場は既に満員の状況である。


「リー、大丈夫さ。黙ってたってなんとかなるよ」


 祖母が太鼓判をおすのにも理由があった。

 それはおじさんのビジュアルの良さである。

 本日のおじさんは、正しくお姫様であったのだ。

 

 うっすらと青みがかかった白のAラインドレス。

 結婚式の花嫁かとおじさんは思ってしまうほどだ。

 髪は後ろで束ねているだけだが、装飾品として宝冠をつけている。

 おじさんの瞳の色と同じ、アクアブルーの宝石が使われたものだ。


 清楚。

 清純。

 優美。

 可憐。

 

 いくら言葉を重ねても、その姿にはとどかない。

 超絶美少女のおじさんが本領を発揮したと言えるだろう。


「しゅてきですわ! お嬢しゃま!」


 側付きの侍女の言葉が怪しい。

 なんだか鼻息も荒い。

 瞳の中にはハートマークが見える。

 

「さぁ行くよ、リー。準備はいいね?」

 

「うう……腹を括りましたわ、お祖母様!」


 今日このときのためだけに作られた競馬場の中央に作られた櫓。

 そこにむかって、おじさんたちは静静と歩いていく。 

 ただおじさんの姿はベールに覆われていてわからない。

 

 祖母とおじさんが所定の位置につく。

 

「傾注、傾注!」


 どよめく会場の空気が、騎士の声で静まりかえる。

 このときのためにおじさんは拡声の魔道具を作って配布していた。

 

「本日、我らがカラセベド公爵家のお嬢様からご挨拶をいただくことになった。静聴っ!」


 その言葉でおじさんのベールが、侍女によって外された。

 同時に、侍女は魔道具を起動する。

 それはおじさんの姿を大きく映す鏡のような魔道具だ。

 

 競馬場でいう巨大スクリーンのようなものである。

 そこにデカデカと映されるおじさんを見た領民たちは、一瞬だが言葉を失ってしまった。

 

 だから数瞬遅れで“ぎぃやあああああ”と悲鳴に似た声が広がったのである。

 もちろんそれは歓喜に満ちた声であった。

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