第182話 おじさん競馬場を作ってしまう
おじさんが次々に大地を魔法で整えていく。
さらには錬成魔法も使って、施設も作っていくのだ。
その作業の早さが尋常ではない。
魔法の規模、精緻さ。
なによりも底の抜けた魔力の量である。
常人なら何十人とかかるような魔法を何回も行使した上で、平然としているのだ。
魔法の大家として知られるカラセベド公爵家。
とんでもなく美しい娘がいることは、公爵家領の人々にとって周知の事実であった。
おらが領主様のお姫様を自慢していたのである。
見たことはないけど。
そんなお姫様は噂に違わぬ、いやそれ以上に美しい娘さんであった。
さらに、もはや神の奇跡と呼んでも差し支えがない魔法が使える娘さんでもあったのだ。
ついでに言えば、誰にも背を許さない白馬も従えた。
そのことも彼らの感情に拍車をかけて揺さぶったのである。
公爵家に仕える騎士たち、そして牧場の責任者はおじさんにむかって跪いていた。
それは意識してのことではない。
ただただ両手を組んで祈る。
女神様にちがいない、と。
「ふぅ。すっきりしましたわね!」
そんなことになっていることはつゆ知らず、おじさんは魔法を使いまくったのだ。
転生してもワーカホリックな部分が、なかなか抜けない。
のんびりするのも好きなのだが、どうしてもウズウズとしてしまう。
おじさんの悪いクセである。
競馬場の整地から、観客席の設置。
楕円形のコースに柵やらなんやらかんやら。
しっかり高低差までつけているのが、おじさんのこだわりなのであった。
あちこちへと白馬に乗って移動しながら、おじさんはデキを確かめていく。
細かいところは本職に任せるとして、およそ大丈夫だろうと思ったのだ。
「エポナ、軽く走ってみましょうか」
白馬はもっと走りたそうにしているが、さすがに裸馬では難しい。
おじさんの体感では、だいたい一周で十分くらいであった。
その間も祈りを捧げる責任者たち。
「あの方たちはどうなさいましたの?」
さすがに戻ってきたおじさんも異変に気づく。
侍女に聞いてみるが、返答は要領を得ないものであった。
「まぁいいでしょう。この子に手綱と鞍をつけてほしいのですわ」
おじさんの言葉に侍女が頷いたと同時に、騎士のひとりが走った。
予備の装備を取りにむかったのだろう。
帰ってくるまでの間、おじさんは白馬のために水をだしてやる。
さらにお手製の魔道具ブラシを取りだして、白馬の毛並みを整えていく。
タウンハウスの守りである精霊獣たち用に開発したのだ。
魔力をとおす量によって、ブラシのかたさや質が変わる。
本来ならブラッシングには複数種類を用いるものだ。
だが、このお手製ブラシならひとつで問題ない。
白馬もまた実に気持ちよさそうな表情になっていた。
しばらくグルーミングをしていると、騎士が馬用の装備を持って戻る。
「お嬢様、私が……」
騎士が装備をつけようとする気配を感じたのか、白馬が思いきり威嚇する。
おじさん以外には触れさせない、といった感じだ。
「エポナは甘えん坊さんみたいですわ。仕方ありません、そこから指示をだしてくださいな」
装備を受けとり、騎士の指示に従って白馬につけていく。
さほど時間がかからず、手綱と鞍がつけられた。
「似合ってますわよ、エポナ」
おじさんが言うと、その顔に自分の頬をすり寄せる白馬である。
そんなに人懐こかったのか、と改めて騎士たちは驚く。
「少し走ってみますか。手の空いている
白馬にまたがり、コースへと入っていく。
総勢で十名。
横一列にならぶ。
「ここを一周しますわよ。早い者が勝ちですわ。手を抜いたら許しませんからね」
パチンと指をスナップさせて、おじさんは光球を作る。
「今から光球が五回点滅しますわ。色が赤から青に変わったら合図ですのよ」
“はっ”と騎士たちが返答した。
同時に赤く光る光球の光が強くなり、一秒ほどの間隔をあけて暗くなる。
そして五回目に赤から青へと光球の色が変わった。
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