第169話 おじさん一狩り行こうぜと誘われる
「狩りの時間だ!」
サロンの扉を勢いよく開け、そう言い放ったのはフレメアであった。
彼女は昨夜の負けがよほど響いたのだろう、朝食の席には姿を見せなかったのだ。
朝食後にサロンでまったりとしていた、おじさんたちはその言葉に声を失う。
しーんとしたサロンの空気を読んで、フレメアは言った。
「狩りの時間だ!」
やり直すことにしたようである。
「負けっぱなしってのは性に合わないんだよ!」
ほんのりと顔を赤らめて言う女傑の姿を、かわいらしく思うおじさんであった。
「かまいませんことよ。フレメア様」
「ねーさま、行っちゃうの?」
横から抱きついてくる妹の頭を優しくなでる。
反対側にいたアミラも頭を押しつけてきた。
隙あらばといった妹たちに苦笑いするおじさんなのだ。
「フレメア様、日帰りできるところでないと困りますが」
おじさんの言葉にフレメアも頷く。
「ああ。実はちょうどいい報告が先日あがっていたんだ」
「ちょうどいい?」
「うちの町から南西方向にギルヴジヴ峡谷って場所があるんだが、そこでどうやら
「そこを潰そうと」
「ああ、アタシが出張れば十分なんだが、リーの実力も見せてもらいたくてね」
「承知しましたわ。民のためとあらば、非才の身でありますが協力いたしましょう」
おじさんの言葉に騎士隊長が口を開いた。
「お嬢様、こちらからはシクステンの部隊をつけましょう」
隊長の言葉に素直に頷くおじさんである。
「ゴトハルト、メルテジオたちのことは頼みましたわよ」
「この命に代えましても」
「ねーさま……」
「ごめんなさいね、ソニア。でも、わかるでしょう?」
“うん”と頷く妹である。
幼くとも貴族の末席に名を連ねるのだ。
貴族の義務が何かを理解している。
ということで、フレメアの誘いにのったおじさんはギルヴジヴ峡谷へと足を運んだのだ。
おじさんが足に使ったのは、擬似的な魔法生物であるお馬さんだった。
馬車を引っぱっていた馬である。
むろんしっかりと見た目はふつうの馬だ。
が、ここらで中身の性能を試してみたかったのだ。
馬車を引っぱるだけではない、本来の性能をである。
ちなみに、おじさんは前世で乗馬の経験はない。
しかし今生では貴族の御令嬢である。
しっかりと乗馬の技術も習得しているのだ。
「思っていたよりサマになっているじゃないか」
隣に馬を寄せて、フレメアが声をかけてくる。
「やるもんだね。だけど、ここからが本番だよ」
“ハッ”と声をかけて、フレメアが馬の速度をあげる。
みるみるうちに小さくなっていく女傑の背中を見て、おじさんも気合いを入れた。
「いきますわよ! パイン・ウィンド!」
おじさんはしっかりと名前をつけていた。
その方が親近感がわくからだ。
本当はブラック・キングにしようと思っていたおじさんである。
しかしここは貴族社会。
キングとつけていいものか迷ってしまったのである。
結果、こちらを採用した。
魔力を干渉させてどんどん供給していく。
効果音にすれば、“どぎゃん”と書かれそうな勢いで突っ走る。
「アドレナリンがどっぱどぱですわ!」
風景がとんでもない勢いで後ろに流れていく。
おじさんの銀髪もだ。
ほどなくしてフラメアの赤髪がなびく背に追いつく。
「ちぃ。やるじゃないか、リーっ!」
「わたくしのパインちゃんについてこれますの?」
「峠の王者をなめるんじゃないよ!」
おじさんたちは図らずも高速乗馬バトルに入る。
ここでおじさんはやってしまった。
身体強化の魔法をお馬さんにもかけたのだ。
その瞬間。
おじさんをのせたパイン・ウィンドはその名に恥じぬ加速をする。
「今日から峠の王者はパインちゃんですわ!」
“おーほっほっほ”と高笑いをするほど、おじさんはテンションが上がっていた。
なんだかんだで楽しんでいるのだ。
そんなおじさんたちに置き去りにされた護衛騎士たちは、口をポカンと開けることしかできなかった。
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