第159話 おじさんやってる感をだしてしまう


 副長は獣人族ビストの先祖帰りなのが判明した。

 そして耳を触らせないという、衝撃の言葉におじさんと弟妹はショックをうける。

 微妙な空気になったところで、隊長が口を開いた。

 

「シクステン、話を戻すぞ。なにか手がかりはあったのか?」


 隊長の問いに、服装の乱れを直しながら副長が答える。

 

「さっきもの言ったスけど、特にこれといったものはなかったですね。ただ……どうにも代官が狙われているんじゃないかって噂は耳にしたッス」

 

“なるほど”とおじさんは頷いてみる。

 代官が狙われているとしても、だ。

 それはいつの話なのだろう、と思う。

 

 自分がいるときに襲ってくるのならどうとでもなる。

 しかし逆に言えば、不確定要素である自分がいるときに襲ってくるのだろうか。

 そんなことを考えながら、おじさんは口を開いた。

 

「どうにも性に合いませんわね」


 そもそも探偵役など似合わないのだ。

 情報が少なすぎるので判断もつかない。


 地道な捜査で情報を収集するには圧倒的に時間が足りない。

 ならばどうすべきか。


「シクステン、これから聞くことは知らないから聞くのです。決して獣人族ビストに対して偏見を持っているのではありませんので」


 とりあえずおじさんは確認作業をする。

 おじさんの言葉で、何を聞かれるのか察したのだろう。

 副長は軽佻浮薄な見た目にピッタリの笑みをうかべた。

 

「気を使ってくれるのはありがたいッス。人狼に類する同族はいるのかってことスね。いるにはいますが別に人を噛み殺したりしませんね。いや噛み殺すってことはできるでしょうけど。わざわざ噛んで殺す意味がないってことッス」


「そうですわね。あなたたちは姿を隠しているのですから、それをわざわざバラすようなことはしない、と。ましてや魔物と間違われるようなことをする意味がない」


 おじさんは形のいい顎に手を置きながら考える。


「あとこの町には同族はいないと思うッス」


「理由は?」


「ニオイ? なんとなくわかるんスよね。同族がいると」


「となると……召喚魔法でも使っている? あるいは獣型の使い魔?」


『主よ、小鳥を飛ばすといい。我が制御する』


 その言葉に従って、おじさんは赤・橙・黄・緑・青・藍 ・紫の七羽を召喚した。

 窓を開けて、小鳥を外へ飛ばす。

 

「ゴトハルト、護衛騎士たちは衛兵隊の宿舎を借りているのでしたわね」


“ハッ”と歯切れのいい返事をする隊長である。


「いつでも動けるように待機させてくださいな」


 おじさんの言葉に、すっかり元の姿に戻った副長が動いた。

 

「では、どうにかするとしますか」


 と格好いい台詞を言ったものの、おじさんはノープランであった。

 ただ、弟妹たちはキラキラとした目でおじさんを見ている。

 その視線に妙なプレッシャーを感じてしまう。

 

「トリちゃん! 情報が集まったら報告を」


 とりあえずやってる感をだしたおじさんである。

 さて、どうしようと思いつつ側付きの侍女にお茶を淹れてもらう。

 

 例えばの話である。

 副長が聞いてきた噂が本当であると仮定しよう。

 その場合、被害者たちには何かしらのつながりがあると、おじさんは思うのだ。

 つながった紐の先にいるのが代官である。

 何かしらの悪事を働いていて、その復讐として犯人は手下を殺して回っていると。

 

 一方で代官の邸を中心に被害者がいることから、犯人は代官の邸にいるとおじさんは思ったのだ。

 このケースだと代官邸の誰かが犯人ということになる。

 ただなぜ民を殺すのかがわからない。

 

 快楽殺人というわけではなさそうだ。

 では目的はなんなのか。

 まったくおじさんには想像がつかない。

 

 そういう意味では前者の方がとおりがいいのだ。

 おじさんにもわかりやすい理由がある。

 

『主よ! 見つけたぞ!』


「犯人ですの?」


『そうだ! 異常な魔力の反応があった。あれは……召喚門か!』


「場所はどこですの?」


『町の東側、船着き場の近くである!』


「ゴトハルト! 三十秒で支度なさい」


 おじさんが声をかけるのと同時に隊長が部屋を飛びだして行く。

 側付きの侍女の一人も動いた。

 彼女は代官に報告に行くつもりだろう。

 

「アミラ、結界は張れますの?」


「ん」


 と返事をすると、アミラはおじさんの魔力を使って代官邸に結界を張ってみせた。


「状況を見てお願いしますね」


 おじさんの言葉に結界を解除する頼もしいコアである。

 

「トリちゃん、状況は?」


『わからん。が、これまでの事件は陽動であったようであるな。わざとそちらに目をむけさせておいて、本命は町の機能を潰すこと』


「では犯人は邪神の信奉者たち、ですの?」


『十中八九はそうであろうな。主、我は小鳥を使って妨害工作に入る』


「まかせましたわ! メルテジオ、ソニアを守れる?」


「守る!」


 弟の返事におじさんは笑顔で頷く。

 そして腰をあげようとしたときである。

 窓の外から、カッと閃光が走るのが見えた。

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