第157話 おじさんは名探偵となりうるのか
おじさんたちは代官の邸で割当られた部屋にいた。
既に食事はすませている。
事件の情報が一段落したところ、代官から食事を振る舞われたのだ。
物資の集積地であり、運河の
豊富な食材を使った食事は美味だった。
おじさんにとって驚きだったのはウナギがでてきたところだ。
この辺りの名物で、味付けも甘辛いものだった。
正確にはおじさんの前世のものと違う味だ。
しかし懐かしい気分になれた。
今はお茶をしながら、人狼問題に取り組もうとしている。
参加メンバーは、おじさん・弟・妹・アミラ・隊長の五人である。
副長のシクステンは情報を収集するために町にでた。
「と言うわけですわ。さて、皆の意見を聞かせてくださる?」
最初に反応を見せたのは隊長であった。
「お嬢様、聞けば衛兵隊も警邏の人数を増やしているとのこと。その目をかいくぐるとなれば、身内の犯行であることも考慮された方がよろしかろうと愚考します」
「衛兵たちの誰かってこと?」
弟がテーブルに置かれた町の地図を見ながら応える。
「衛兵、あるいは……」
代官本人が犯人の候補とは、口にしない隊長であった。
「や! 負けちゃう!」
「あせるのは悪手」
アミラとソニアの二人はコマ弾きゲームに夢中だ。
「んん、時系列的に見た場合、どんどん代官邸に近寄ってきているとも言えますわね」
印の横には小さく番号が振られている。
最初の事件が始まって、時間経過の順に番号を振ったのだ。
この順に点を結んで、脳内で線を引いてみるおじさんである。
六芒星とか五芒星とかの図形になれば、目的が判明すると思ったのだ。
しかし線を引いても、特に意味のある図形にはならなかった。
いや待てよ、とおじさんは思うのだ。
そもそもこの犯人は単独犯なのか、それとも複数犯によるものか、と。
もっと言えば動機はなんだ。
見せしめのように死体を残している。
それでは誰かがやった証拠を残すことになる。
人知れず殺したいわけではない。
つまり――なんなんだってばよ?
復讐?
被害者同士のつながりは?
なんというか情報が足りなさすぎる。
おじさんにはお手上げだった。
「副長が帰ってくるまで待ちますか」
と言いつつ、おじさんは頭を働かせていた。
正攻法で解決は難しい。
なら魔法を使えばどうだろうか。
おじさんの脳内知識にある魔法を参照していく。
この状況で役に立ちそうなのは、と。
……おじさんに心当たりはなかった。
となると、できることはひとつだけである。
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない――ではなく、なければ新しく作ればいいのだ。
そういう魔法を。
と言うことで、出番が少ないとぼやいていた使い魔を召喚する。
「つぎ、にーさまだよ」
「クッ。もうグラグラしてるんだけど」
「ん。倒したらメルテジオの負け」
もはや年少組は考えることを諦めたようである。
『なるほどな、そこで我の出番ということか』
トリスメギストスの言葉におじさんは頷いた。
『新しい魔法、あるいは魔道具か。この場合、嘘を見破るものを……』
そこへ副長が戻ってきた。
「お嬢様、隊長、ただいま戻りました」
ご苦労様とねぎらうおじさんである。
「首尾はどうであった?」
「ってかなんで本が浮いてるんスか?」
副長の騎士らしくない言葉遣いを聞いた隊長が叱責する。
「シクステン!」
だがすぐにおじさんがフォローを入れた。
「そちらの方が話しやすいのでしたらかまいませんわ。ただし公の場ではきちんとしてくださいな」
「すんません。じゃあお嬢の言葉に甘えます」
こくりと頷くおじさんだった。
「そちらの本はお嬢様の使い魔だ」
『うむ。
「げえぇぇえ! しゃ、しゃべったあああああ!」
『主よ、こういう素直な反応は初めてではないか?』
「そうですわね。なんだか逆に新鮮ですわ」
そこで咳払いをして、空気を変える隊長であった。
「シクステン、報告を」
隊長の言葉に顔を引き締める副長である。
「報告って言っても特にこれといった情報はなかったですね。酒場にも行ってきたんスけど、まぁオレみたいな外部の人間には口を開きませんや」
「むぅ。確かに代官殿も疑心暗鬼の状況だと言っておられたな」
「ただ……」
と顔色が急激に悪くなる。
呼吸が荒くなり、膝をつく。
「シクステン!」
隊長が叫ぶ。
がたり、と音を鳴らしておじさんが立ち上がった。
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