第156話 おじさん代官と話し合いに臨む
港町ハムマケロス。
カラセベド公爵家領と王領を結ぶ交通の要衝だ。
水上交通と陸上交通が交わる起点であり、物資の集積地でもある。
つまり商業都市としての側面もある町なのだ。
そんな港町ハムマケロスの領主である代官邸のサロンにおじさんはいた。
用意していたドレスを着てである。
ふわっとした感じのサマードレス。
ただフォーマルな感じでシックな色合いのものだ。
デコルテと膝下の生地が透け感があるのがポイントになっている。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワですわ。後ろに控えているのは、当家の護衛騎士隊長ゴトハルト・インニェストレームですの」
華麗にカーテシーを決めるおじさんである。
そんなおじさんの後ろで隊長は目礼をした。
「これはご丁寧な挨拶を痛み入ります。ハムマケロスの代官を仰せつかっております、ヤルマル=ヨーン・アウリーンにございます。噂に違わぬ、いえそれ以上の麗しきご尊顔を拝しましたこと光栄に存じます」
ヤルマル=ヨーン・アウリーン。
王領の代官を任されている子爵である。
年の頃は四十くらいか。
でっぷりとした腹が突きでている。
老けてはいるが皺がなく、テカテカした顔の男性だ。
ただ身長がある。
巨躯の隊長よりも、縦にも横にも二回りは大きい。
恐らくは二メートル近いのではないか、とおじさんは思った。
当然だが子爵はおじさんよりも目上の立場の人間である。
公爵家の令嬢とは言え、子爵家の当主となればそちらの方が立場は上。
しかしおじさんに対して、かなりへりくだった挨拶をしたのが気になるのだ。
そこに何かあるのかと疑いたくなるおじさんだった。
「王都からの長旅でお疲れでしょうが、相談にのっていただけませんかな?」
お互いに席について、社交辞令の挨拶をする。
その後、運ばれてきた飲み物を一口飲んでから子爵が話を切りだした。
「ええ。軽くお話は聞いておりますわ。なんでも人狼という魔物がでると」
我が意を得たりと子爵が大げさに手を打った。
「そうなのです! 衛兵たちも鋭意捜査をしておるのですが手応えがなく、ほとほと困っておりましてな、できればご助力をいただけませんか?」
王国貴族は民の盾となり、剣となるのを是とする。
その言葉に不審なものを感じなかったおじさんだ。
「ゴトハルト、確か今日、明日と滞在してからの出立でしたわね?」
“はっ”と歯切れの良い返答をする隊長だ。
「予定をずらすことはできませんが、滞在中に協力するのはやぶさかではありませんわ」
「おお! ならばお願いできますでしょうか?」
おじさんはその言葉に頷いた。
最初から協力する気ではあったのだ。
民を噛み殺す、と聞けば放っておけない。
さりとて予定は詰まっている。
なので足下を見られては困るのだ。
ここは短期間での解決の一手である。
そのためには現状を把握する必要があるのだ。
「では今のところ判明している情報をいただけますか?」
おじさんの言葉に子爵の後ろに控えていた衛兵隊長が応える。
一ヶ月ほど前から、朝になると噛み殺された民の死体が見つかるようになった。
狼に噛まれたような傷跡から、人狼という魔物だという噂が立つ。
既に犠牲者は十人を超えているとのことだ。
誰の犯行なのかわからない状況で、疑心暗鬼に陥る者たちも多い。
衛兵隊も捜査は進めているのだが、現状では犯人の目星すら立っていないとのことだ。
なるほど、とおじさんは思う。
あくまでも人狼というのは犯人の呼称のようなものだ。
そういう魔物がいるかどうかはわからない。
頭をひねったおじさんは町の地図を用意してもらう。
そして犠牲者のでた場所に印をつけていく。
するとわかったことがあった。
それは代官の邸を中心にして、円状に印が広がっていることだ。
つまりこの代官の邸に犯人がいる可能性が高い。
……知らんけど。
だって、おじさんは探偵をした経験がないんだもの。
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