第155話 おじさん順調な旅路かと思いきや


 アメスベルダ王国は、ざっくりと言えば二等辺三角形のような形をしている。

 おじさんの記憶で言えば、イギリスっぽい感じの形だ。

 中央部分が王家の直轄地である。

 残りの北部、南東、南西の三つの地域をそれぞれの公爵家が担当している。

 

 おじさんたちは王国のほぼ中央に位置する王都から、南西地域にある領地へと行くのだ。

 日程としては一般的な馬車なら二日ほど走った場所にある町から、運河を使って船で進む。

 順調な船旅でだいたい三日ほどで公爵家領の港町につく。

 

 その港町から馬車で二日程度で公爵家の領都に到着する。

 意外と長旅なのだ。

 

 だからこそおじさんは年少組が疲れないように配慮した。

 問題は船旅である。

 魔改造した馬車の中にいれば、酔うことはないだろう。

 しかしそれでは船旅の醍醐味を味わえない。

 そこでおじさんは酔い止めの薬まで作っていたのである。

 

 おじさんは擬似的な魔法生物であるゴーレムで馬を作った。

 外部から魔力を取りこみ続ける限り、疲れ知らずで走らせることもできる。

 だが騎士たちが乗る馬はそうではない。

 なのであまり無茶な行程で進めないのである。

 

 予定よりも時間がかかっても無事につけばいいとおじさんは思っている。

 ということで隊長であるゴトハルトには、無理な行程は組まなくていい、と伝えていた。

 

 概ね順調な旅路である。

 いや正確には魔物と遭遇したのだが、騎士たちがさっさと倒してしまう。

 

 そうしてある程度進んだところで、一日目は無理をせずに野営することになったのだ。

 もちろんおじさんたちは野営といっても、くだんのログハウスまである。

 そのため家にいるときと変わらない日常なのだ。

 

 ただいつもの王都とは違う景観に年少組ははしゃいでいた。

 そこは見晴らしのいい丘の上にある開けた場所である。

 

「本当によろしいのですか?」


 おじさんは隊長に確認をとる。

 それは騎士たちの宿泊場所をどうするか、だ。

 自分たちだけがログハウスに泊まるのを気にしていたおじさんである。

 なので騎士たち用にも簡易的なものであるが、宿泊場所を錬成魔法で作っていたのだ。

 

「お気持ちはありがたく。ですが訓練も兼ねておりますので、お気遣いは不要で」


「そうですか。ならばこれだけでも使ってくださいな」


 おじさんは宝珠次元庫から、渦巻き状の練香ねりこうを取りだす。


「虫除けですわ。今の時期は虫が増えるでしょう? その先端に火をつければ虫除けの煙がでます」


 おじさんは渦巻き状の練り香を、ぱきっと手で取り外しながら説明する。


「少しでも安全に。この虫除けの練香はうちの商会で発売しますから、騎士団でも今後は使われると思いますわ」


「なるほど。では、こちらは使わせていただきましょう。ありがとうございます」


 そんな一幕もありながら、順調に旅路は進んでいく。

 妹や弟もゲームに興じているからか、飽きたという様子もなかった。

 そして王領の玄関口でもある港町に到着するのである。


 防護壁に囲まれた港町を前にゴーレム馬車が停まった。

 そろそろ夕方に入ろうかという時間帯だ。

 太陽がやけに黄色くなっている。


「リーお嬢様」


 隊長が声をかけてくる。


「どうかしましたの?」


「先行させていた騎士から報告がありましたので」


 と隊長が言葉を少し濁した。

 何かしらの不都合があったのだろうか、とおじさんは考える。

 

「港町で人狼なる魔物が出没しているそうです」


「人狼?」


「ええ。なんでも夜になると民を噛み殺す魔物がでると」


「それは代官からの情報ですの?」


「いえ。代官からは一席設けたいと話がきておりますので、恐らくはその場で話があるはずです」


「なるほど、ではわたくしが対応いたしましょう」


 実は長旅で退屈していたのは、おじさんの方だったのである。

 キラキラと目を輝かせて、ゴーレム馬車の中に戻っていく。

 

 その後ろ姿を見つめる隊長は、尊敬する公爵閣下の言葉を思いだしていた。

 

「リーが暴走しそうになったら止めるのがキミの仕事だよ」


 閣下。

 申し訳ありません。

 と、隊長は心の中で謝った。

 

 あの嬉しそうな表情を見てしまえば、どうにも厳しくでられない隊長なのだった。

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