第151話 おじさん長期休暇に入る前に依頼をかたづける


 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツとの会合を終えた翌日である。

 この日は朝から弟妹たちと遊ぶおじさんなのだ。

 アミラにメルテジオ、ソニアの三人はすっかり仲良くなっている。

 おじさんの作ったゲームで、よく遊んでいるそうだ。

 

 そんな平和の午前中を過ごしたわけだが、午後からは依頼をかたづけなくてはならない。

 筆頭薬師から頼まれた水虫の薬である。


 ――水虫の薬。

 

 前世では白癬菌というカビが原因とされていた。

 そのためカビを殺す、抗真菌薬が使われていたわけだ。

 基本的には塗り薬、爪の水虫だと飲み薬が効果的とされていた。

 

 この世界では治癒魔法がある。

 水虫の症状に対しても有効ではあるのだが、原因である白癬菌は殺せない。

 つまり一時的に症状を抑えることはできても、原因を除去していないため再発するのだ。

 いわば対症療法でしかない。

 

 そこでおじさんは考える。

 根本的に治療ができる塗り薬を作ることはできるだろう、と。

 ただ飲み薬は怖い。

 どんな副作用がでるのかわからないからだ。

 

 と言うかである。

 そもそもおじさんは抗真菌薬の成分など詳しいことは知らない。

 しかし魔法という不思議パワーに加えて、女神の愛し子たるおじさんである。

 適当に素材を用意して、“えいや”と錬成魔法を使うだけなのだ。

 

 それだけで、おじさんの目の前に瓶の中に入った外用薬ができてしまう。 

 

「我ながら恐ろしいですわ」


 コツコツと積みあげてきた医学に対する冒涜のように思えて仕方ない。

 その辺はもう女神のせいにするしかないだろう。

 

「トリちゃん!」


 困ったときのお助け使い魔を召喚するおじさんである。

 

『主よ、今日は何を解析すればいいのだ?』


 既に心得ているのか、使い魔の方も文句を言うことはなかった。

 

「このお薬を見てくださいな。ちゃんと水虫に効きます? あと安全性についてもお願いしますわ」


『しばし待たれよ』


 実に素直なトリスメギストスであった。


『うむ、水虫の薬か。安全性は問題ないだろう。ただこれは主が新しく作りだしたものであるからな、効果のほどまでは我にはわからん。一度試してみた方がよかろう』


「そうですか。とりあえず安全性に問題がなければよしとしましょう。これはお父様に使ってもらいますわ!」


『では錬成のレシピであるな』


「話が早いですわね、トリちゃん!」


『むふふ。我はデキる子であるからな』


 おじさんはトリスメギストスから提供されたデータを魔法で書類にしていく。

 さらに前世で経験した、水虫対策も書類としてまとめる。

 要は高温多湿の状況を作らないようにして、タオルやマット、靴なども使い回さないということだ。

 

 ほんの数分で作業を終えたおじさんである。

 予定していたよりも、時間が余ってしまった。

 

 そこで領地にむかうための必要な物を考えていく。

 お子様組には元気がでる飴を作っておく。

 手軽に食べられるし、移動での体力の消耗を抑えられるからだ。

 

 そういえば、とおじさんは思いだす。

 この飴は使用人たちの間でも好評なのだと聞いていた。

 お付きの侍女たちも、ポケットの中に小瓶を忍ばせているそうだ。

 となると、ついでに作っておいた方がいい。 


 思いつくがままに、おじさんは錬成魔法を使っていく。

 使えば使うほど精度があがり、できる物の品質も高くなっていくのがおじさんクオリティである。

 

 あらかた必要な物を作り終わったときであった。

 コンコンと地下にある作業室のドアがノックされる。

 

「リーちゃん、ちょっといいかしら?」


 母親であった。

“しばしお待ちを”と返答しつつ、おじさんは宝珠次元庫に成果をしまっていく。

 ついでにトリスメギストスも送還しておいた。


「どうぞ」


 きれいにしたところで、おじさんは母親を招きいれた。

 

「あら? まだ終わってなかったの?」


「いえ、もう終わりましたわ」


 と宝珠を見せるおじさんである。

 

「じゃあ、時間はあるってことね!」


 巨大ゴーレム作戦が失敗に終わった母親は、次なる計画に移っていた。

 魔法水銀を注文していたのである。

 これを使って自由自在に形を変える魔法生物を作ろうという計画だ。

 おじさんが提案したものだが、さっそく動いていたようである。

 

「それでね、術式を組んでみたの」


 こうなればおじさんも俄然やる気がでてきてしまう。

 そして母と娘で何やら怪しげなものを作りだしてしまうのであった。

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