第150話 おじさん予定を薔薇乙女十字団に報告する
家での居場所がなくなるのでは、と不安を抱える父親に対して、おじさんは言葉を紡ぐ。
「それとお父様、王城でも執務室にいる間は邸で使っているサンダルを履くべきですわ」
「え?」
「外務を担当されているお父様は人に会うことも多いでしょう。そうしたときには靴を履くしかありませんが、書類仕事をするときはサンダルにしてくださいな」
「そんなの関係あるの?」
「ありますわ! そもそも水虫になってしまうと家族に移すこともあるのですよ!」
おじさんの言葉に、サロン内の空気がピシリと緊張したものになる。
特に女性陣から男性陣への視線である。
「リーちゃん、それ本当?」
母親が鋭い声をだした。
「はい。トリちゃんに確認しましたから間違いありませんわ」
嘘である。
水虫については、おじさんの前世の知識だ。
顔色ひとつ変えずに、しれっと嘘をつけるようになったおじさんである。
これも令嬢の心得(極)のお陰だろうか。
「スラン! すべてリーちゃんの言うとおりになさい」
母親の声に父親は顔を青くさせて頷く。
ちなみに父親の靴は、おじさんの言に従ってすべて新調されることになる。
“お気に入りの靴なのに”と呟く父親の背中に哀愁を感じるおじさんなのであった。
こうして公爵家邸にて水虫対策がとられる。
その情報は王国貴族で重要情報として広まっていくのだが、それは別の話だ。
そんなこんなの日々の中で、おじさんは
場所は公爵家邸である。
既に学園は休暇に入っていたが、出席率は百パーセントであった。
「皆さんにご報告がありますの」
皆が集まったところで、おじさんが口を開く。
「わたくし、今回の長期休暇は領地に視察へ行くことになりましたの」
長期休暇中の
今回の招集の目的はそう聞いていた。
家の事情で色々と忙しい貴族の御令嬢である。
それでも駆けつけたのは、
「それはいつまでのご予定でしょうか?」
アルベルタ嬢が必要なことを聞いてくれる。
「今のところ予定は決まっていませんわね。休暇期間いっぱいになるかもしれませんし、早めに戻ってくるかもしれません」
「となると、
「残念ですが、その方向で調整していただけますか? 少し予定が読めないのです」
「かしこまりました」
デキる御令嬢アルベルタ嬢はすっかり秘書役が板についている。
「リーお姉さま!」
そこでパトリーシア嬢が挙手をする。
「今日はお時間をいただけるのですか?」
その問いにおじさんは“ええ”と頷く。
「来期からの魔技戦、一年生の代表は
非常に前向きな発言であった。
おじさん的には、最強伝説云々はどうでもよかったりする。
ただ己を磨く努力こそが、将来の財産となる。
パトリーシア嬢の心意気は、おじさんの琴線に触れたのだ。
触発されたおじさんは、自身も安穏としていられないと改めて思う。
だからこそ決意をした。
「承知しました。では本日はお一人ずつ指導していきましょうか」
おじさんの言葉に、
「じゃ最初は私ってことで」
聖女がしれっと立ち上がる。
「ちょっとエーリカ!」
「そこは譲れないのです!」
いつもの三人組が揉めはじめる。
そこで、おじさんが仲裁に入った。
「先日の件もありますし、エーリカからとしましょうか。その後はアリィにパティといきましょう」
おじさんは午前中から昼食をはさみ、夕刻までの時間をたっぷりと使って指導した。
手取り足取り、きめ細やかな指導である。
御令嬢たちも大満足な結果であった。
「皆さん、お疲れさまでした。随分とがんばっておられますわね。以前よりも魔力循環がかなり上達していて驚きましたわ!」
おじさんが閉めの言葉を紡ぐ。
その言葉に涙をうかべる者までいた。
「ですがまだまだ伸びしろがありますわ! エーリカ、アリィ、パティの三人も油断はできませんわよ。皆がどんどん伸びていますからね。この休暇期間中も先ほどの言葉を思いだしながら鍛錬あるのみですわ」
“はい”と全員が声を揃える。
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