第130話 おじさん本物のリー先生になる
公爵家邸でなんだかんだとあった数日後のことである。
ついに学園での試験当日とあいなった。
本来であれば、試験を免除されてしまったおじさんは休みでも問題ない。
しかし学園長と悪巧みをしたおじさんである。
なぜか鼻歌を歌いながら、いつもの制服に身を包んで学園までの道を馬車で揺られていた。
いつものように学園に着くと生徒が使う停車場ではなく、講師が使う停車場へと進んでいく。
そして、おじさんは講師として学園の建物に入るのであった。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ?」
おじさんを見つけたのは、いつもの男性講師であった。
なぜここに? そんな表情である。
「おはようございます。今日は講師としての参加なのですわ」
どこか悪戯ッ子のような顔のおじさんを見て、男性講師は察してしまった。
これはもう絶対にあの学園長が関わっている、と。
先日の会談のときに何かしらを吹きこんだのだろう。
そう判断した男性講師は、嫌な予感を抱きつつ確認をとった。
「学園長からの指示ぃー?」
“そうですわ!”と答えるおじさんであった。
「わたくし、ちょっと準備がありますので失礼しますわ」
そう言い残して去っていくおじさんの背を見つつ、男性講師は思う。
また面倒なことを、と。
おじさんはこっそり
そこで持参した衣装に着替えるのであった。
最近はめっきりコスプレにはまっているおじさんである。
今日のコーディネートは侍女たちが張り切ってくれたのだ。
膝下丈の黒のプリーツスカートに白のインナー。
さらに上から羽織る黒のカーディガンである。
シンプルなモノトーンコーディネートだ。
しかし、超絶美少女であるおじさんが着れば、あら不思議である。
部室に設えてある姿見鏡で確認してみた。
「か、かっこいい……」
自分でもボソッと呟いてしまうほど、おじさんには似合っていた。
シニヨンにまとめられた髪型ともマッチしている。
ここに眼鏡をかけたら、女性教師の完成であった。
なぜか女性教師というと眼鏡にこだわるおじさんなのだ。
気分が良くなったおじさんは、生徒たちに見つからないように姿隠しの魔法を使う。
そして講師たちが集っている職員室へとむかったのである。
「は?」
おじさんを見た男性講師が声をあげた。
「今日はこれでいきますわ!」
なんだか色々と察してしまった男性講師である。
学園長を初めとして、どうにもこの国の上層部の一部には伝統的に頭のネジがゆるい人間がいる。
バカなのではない。
むしろそういう意味では、とても優秀だと言えるのだ。
ただ常識にとらわれないというか、癖が強いのである。
こういう人間たちに振り回されるのが、自分のような凡俗なのだ。
そんな思いに囚われてしまう男性講師であった。
「うん……まぁいいんだが、試験中の監督官をするだけだぞー」
「わかってますわ!」
ならなんでそんな格好なのだと問いたい男性講師である。
制服でいいじゃないか、と。
だが口にはしない。
大人なのだ。
「試験が終わったら回答を回収しておいてくれないかー」
「先生はどうしますの?」
「実技試験の準備で忙しいんだよー」
“そういうことですの”とおじさんたちは、教室にむかって連れだって歩きだす。
試験の問題はおじさんが収納してしまった。
がらり、と教室のドアを男性講師が開ける。
おじさん以外の生徒たちは、すでに席についていた。
そこへ男性講師に続いて、おじさんが入っていく。
瞬間。
女子生徒たちが爆発的な歓声が起こる。
一方で男子たちはと言うと、おじさんに見惚れていた。
それも仕方がないことだろう。
なにせおじさんは超絶美少女なのだから。
学園の学科試験は、こうして幕を開けたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます