第128話 おじさん母親と一緒にやらかしてしまう


 公爵家のタウンハウスの門をくぐったところで、おじさんは馬車を降りた。

 母親の姿があったからだ。


「お母様!」


「リーちゃん!」


 母親の顔に悲壮感は一切なかった。

 むしろ喜悦にあふれている。

 それはおじさんも同様だった。


「すごく、おっきいですわ!」


「でしょう? アミラちゃんにも手伝ってもらったのよ」


 いつの間にかアミラが側にいて、“ん”と胸を張っている。

 そして、おじさんにむかって頭をさしだしてきた。

 なでてということだろうか。

 

 おじさんが困惑して母親を見ると頷いている。

 なでるのでまちがっていなかったようだ。

 サラサラとしたアミラの頭をなでていると、妹も隣にならんでいた。

 その後ろには弟もいる。

 

 さらに母親まで列にならぶのであった。

 

「お母様も?」


「いいでしょ、がんばったんだから」


 押しに弱いおじさんである。

 つい母親の頭までなでてしまった。

 

 そんな一幕を終えたおじさんは、改めて建造物もかくやというゴーレムを見る。

 否、もうゴーレムと呼んでいいのかもわからない。

 全体的な造形としては、おじさんの記憶にあるアニメに近いだろう。

 

 ただあそこまで整ってはいないし、武装しているわけでもない。

 カラーリングだってされていない。

 石造りのでっかい巨像だ。

 

 それが公爵家邸の一部を破壊して顔をだしている。

 ちなみにこの件で怪我人はでなかったそうだ。

 既に使用人たち全員の避難が完了している。

 

「この巨大ゴーレムがあれば、魔物討伐ももっと被害を減らせるんじゃないかしら?」


 おじさんに説明するように母親が言う。

 

「でも問題点が山積みなのよねぇ。アミラちゃんもダンジョンに置きたいって言ってるし」


「どんな問題点があるのです?」


「いちばん問題点は魔力の持続が短い点ね。あと擬似的な魔法生物って言ってもそこまで頭がよろしくないのよねぇ。なかなか言うことを聞いてくれなくって」


「でも、かっこいい」


 アミラは随分と気に入っているみたいだ。


「では魔力に干渉して操作するみたいに、外部から動かせるようにしてみてはどうですか?」


 擬似的な魔法生物を使ったマッサージチェアは単純な命令しか実行しない。

 おじさんがそう作ったからだ。

 しかし巨大なヒト型ゴーレムとなるとそうはいかない。

 なにせ二足歩行をするというだけでも、かなり難しいのだ。

 

 ただおじさんには前世の知識がある。

 そこでいわゆる遠隔操作をするロボットを例にだしてみたのだ。

 

 いや待てよ、とおじさんは思う。

 そもそもこの世界には、天然のゴーレムがいるわけだ。

 野生のゴーレムはどうやって自律行動をとっているのだろう。

 あちらは疑似ではなく、本物の魔法生物である。

 

 そのちがいはどこにあるのか。

 

「そうなのよねぇ。私もその方法は試してみたんだけど」


 そこで母親は言葉を句切って、おじさんを見た。

 

「それがあの結果なのよ」


 宝珠にこめた魔力だけでは動かなかった。

 そこでアミラの協力を得て、母親は魔力干渉を使って操作してみたのだ。

 しかし加減が難しく、上半身だけが起き上がって公爵家邸の一部を破壊してしまった。

 なので干渉を切ったとのことである。

 

「とりあえず立たせてみましょうか?」


 おじさんが遠隔による魔力干渉を使ってみる。

 女神からチートである魔力支配を持つおじさんなのだ。

 干渉さえできてしまえば、後はお手のものであった。

 

 ばがん、と大きな音を立てて、公爵家のタウンハウスがさらに破壊される。

 スクッと立ち上がった巨大ゴーレムは見上げるほどに大きかった。


「あら? リーちゃん、あっさり動かしたわね」


「ん。姉さまならできる」


 大きい。

 とは言っても、おじさんの記憶だと出張のときに見た北の大地にある時計台くらいか。

 それでも十分な大きさである。

 

 まだ昼前の時間帯だが、ざわざわと周囲から声が聞こえてきた。

 やはり目立つのだろう。

 だが座らせるとなると、さらに被害が拡大するかもしれない。

 

 どうしたものかと悩んでいると、父親の馬車がとまるのが見えた。

 母と娘が仲良く父親を迎え入れる。


「ヴェロニカ、リー」


 微笑ましい光景を見る父親の眉はしかめられていた。

 

「これ、どうするつもりなのかな?」


 頬がヒクヒクと痙攣する父親であった。

 そんな父親を見て、二人は同じタイミングで、同じ方向に首をかしげる。

 

「さあ?」


 二人の声が重なった。

 奇しくも発する言葉も同じであったのだ。

 

 そんなことはどうでもいいと言わんばかりである。

 

 “まったく”と口にしながら、額に手をあてる父親であった。

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