第127話 おじさん学園から呼び戻される
学園長との悪巧みを終えた翌日。
試験を直前に控えた学園というのは、どこかいつもと雰囲気がちがうような気がする。
そんなことを考えていたおじさんだが、今はまだ講義の途中だ。
ベテランの講師から王国の歴史を学んでいる。
その途中でコンコンとドアがノックされた。
「ん?」
と歴史学担当の講師が声をあげたときだった。
おじさんのクラスを担当する男性講師が、実にバツの悪そうな顔で入り口を開けた。
「バーマン卿? なにか? まだ講義の途中なのだが」
「すまない。ちょっと緊急の事態が
と言いつつも、歴史学担当講師の返答を聞く前に、男性講師が声をあげた。
いつもの間延びした話し方ではない。
そこに真剣さを感じるおじさんであった。
「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ。今日はもう帰っていいぞ。というか帰ってきてくれって公爵家から連絡があったんだ」
「詳細はわかりませんの?」
「ああ。わざわざ公爵家の執事長がきてるから、な」
「は? アドロスが?」
家族になにかあったのか?
おじさんの頭の中で、なにかがカッと熱くなる。
誰も失わせてなるものか。
「かしこまりました。では失礼いたしますわ!」
そこからのおじさんは素早かった。
持ち物はなにも持たずに、さっさと歩いて教室をでて行ってしまう。
どんなときでも御令嬢は走ったりしないのだ。
ただいつもとちがう様子のおじさんに、残された教室の空気が一瞬で緊張したものになる。
しかし、その空気は歴史学担当講師の一言で霧散した。
「では講義を続ける。いいか、ここからが大事だぞ。試験にでるかもしれないな」
いかにもベテラン講師らしい学生の心理をついたやり口であった。
一方でおじさんは護衛の騎士たちの詰め所で執事長とも合流する。
「アドロス! なにがあったのです!」
鬼気迫るおじさんの表情に、執事長はそっと目を伏せた。
その様子に嫌な予感がとまらないおじさんである。
ガッと執事長の肩を掴む。
「アドロス!」
「いえ……申し訳ありません。お嬢様の考えておられるようなことはありませんのでご心配なく」
「なんですの? どういうことですの?」
「ここでは話しづらいことですので」
と執事長が馬車へとむかう。
その後をついていくおじさんであるが、まだ少し混乱気味であった。
いったいなにが起こったのか。
馬車が動きだすや否や、おじさんは執事長を詰める。
「どうしたのです?」
「申し訳ありません。ヴェロニカ様が暴走しました」
「お母様が? 暴走?」
「先日よりヴェロニカ様が研究に没頭されていたのはご存知でしょう?」
あ。
おじさんはそこで気がついた。
擬似的な魔法生物のことである。
母親はずいぶんと前のめりになっていたのだ。
とりあえず自分が考えていたような不幸があったのではないと、おじさんは息をはく。
そして執事長を見た。
「お母様はなにをやったのです?」
「それが……緊急事態だからリーちゃんを呼んできてとだけ」
おじさんは思わず天を仰いでしまった。
馬車の天井しか見えないけど。
なんだか心配しまくった自分がおかしくなってしまったのだ。
「うふふ」
と自嘲めいた笑いが漏れてしまう。
「リーお嬢様?」
「よかった。本当によかったですわ」
ぽつりと漏らすおじさんであった。
「アドロスが学園にまできたのだから、何事かと思いましたのよ」
ほろり、とおじさんの目から涙がこぼれる。
安堵したのだ。
そんなおじさんを見て、執事長はとても申し訳なさそうな表情になった。
しばらく車内はいたたまれない空気に包まれた。
どこか顔を赤くしているおじさんを見つめつつ、執事長は思う。
昔から家族思いな一面はあったがここまでとは、と。
おじさんの思いの深さを再確認した執事長であった。
「あ、アドロス様!」
とまった馬車の外から護衛騎士の声がかかる。
「どうかしましたか?」
と返答しようとして執事長は見てしまった。
窓の外にある異様な
それは公爵家の一部を破壊して、頭がニョッキリと地面から生えている。
春先に見られる雨後の竹の子みたいなものだ。
竹林近くのアスファルトを突き破ってでているアレである。
そして執事長の姿につられて、おじさんもまた見てしまう。
「ガ、ガンガル?」
おじさんの呟いた言葉は、執事長の耳には入っていなかった。
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本作がカクヨムコン8の読者選考を通過いたしました。
皆さんの応援あってのことで本当に感謝しております。
引き続き、おじさんの更新をがんばっていきますので、よろしくお願いいたします。
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