第126話 おじさん学園長から魔物討伐の許可をもらう


 学園での試験が目前に迫ったある日のことである。

 おじさんは男性講師から言われて、放課後に学園長の部屋へとおとなっていた。


「失礼いたしますわ」


 とおじさんがきれいな所作で学園長室にあるソファーに座った。

 

「うむ。色々と話は聞いておるぞ、リーよ」


 つるりとした禿頭をなであげる学園長である。

 おじさん、ちょっと思ってしまった。

 ひょっとして学園長は、ない派なのか、と。


 そんなおじさんの思いを見透かしたのか、“ほっほ”と笑う学園長である。


「なに、ワシはどちらにも加担しておらんよ。この年齢じゃからな、今さらというものよ」


 その問いにホッとひと息をはくおじさんであった。


「今日はそのようなことではなく、リーよ、そなたの試験のことだ」


「ダンジョン講習の話ではありませんの?」


“ん?”と学園長が自慢の白鬚をなでた。


「ああ。ヴェロニカに聞いたのじゃな? そちらもあるが試験の方じゃな」


「試験ですの?」


「うむ。リーは試験を免除することになった」


「はい?」


 思わず聞き直してしまうおじさんである。

 

「いやもう今さらじゃろ? 試験は免除、これは決定じゃ」


 おじさんそういう特別扱いはして欲しくないのだ。

 だって試験について話ができないのでは、ひとりぼっちになるではないか。

 それでは理由こそちがっても前世と同じである。

 

 おじさんだって、主に薔薇乙女十字団ローゼンクロイツの面々と語りたい。

 そんな思いがつい表情にでてしまったのだろう。

 つん、と唇を不満そうにとがらせてしまうおじさんであった。

 

 そんなおじさんを見て、学園長が呵々と大笑する。

 

「ふふ……そなたでもそのような子どもらしい表情をするのじゃな」


「だって! わたくしも試験をうけたいですわ!」


 つい思いがほとばしって、席を立ってしまうおじさんであった。


「わかっておる。なので学科は免除としよう。実技についてはワシが面倒を見よう」


「実技? 学園長が?」


「うむ。例年であれば実技試験はダンジョン講習の一環として行われるのじゃ」


 そこで学園長は言葉を切って、おじさんに席につくよう目で促した。

 

「じゃがリーはダンジョン講習でも講師側であろう? となると免除にするのが必然なわけだ。しかしそれでは余にもと言うもの。そこで実技試験の代わりに魔物討伐に赴こうというわけじゃな」


「魔物討伐っ!」


 学園長の言葉だと、おじさんは実技試験では薔薇乙女十字団ローゼンクロイツと別行動になる。

 しかしダンジョン講習の歯ごたえのない魔物相手ではなく、実戦ができるのだ。

 そこに魅力を感じるおじさんなのである。

 

「ワシがリーを引率することになる。他に手の空いている者がおらんからな」


「わかりました。それで手を打ちましょう」


 ふんす、と鼻を鳴らすおじさんであった。


「うむ。では実技試験の当日を楽しみにしているがいい」


「ありがとうございます」


 と頭を下げるおじさんであった。

 ただ、ふと脳裏によぎったことがある。

 なので頭を上げて、学園長を見た。

 

「わたくし、学科試験の日はなにをすればいいんですの?」


「特にすることはないな。その日は休んでおっても……いや」


 学園長がにちゃあと獣ごとく唇の端をつりあげた。

 それは酷く悪者の表情である。

 政争劇なら確実に悪巧みをする黒幕だ。

 

「リーよ、ちょっとしたお遊びをしてみんか?」


 学園長とおじさんは悪のりするのであった。

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