第124話 おじさん薔薇乙女十字団をオーバーキルしてしまう
「エーリカ! 大丈夫にゃん、傷は浅いにゃん!」
鼻血を吹いて倒れてしまった聖女に近寄り、おじさんが追い打ちをかける。
おじさん、ちょっと調子にのってしまったのだ。
だって誰も反応してくれなかったのだから。
寂しかったのだ。
おじさんが“にゃんにゃん”言うたびに、聖女の身体がビクンと震える。
その表情は
目は垂れ下がり、口は半開きになって、“ぐふふ”と笑い声を漏らしているのだ。
ぜんぜん傷は浅くなかった。
他の御令嬢はどうなっているのだと、おじさんは周囲を見る。
御令嬢たちは皆、四つん這いのままだった。
そして“ぐふぐふ”と言っているのだ。
悪夢を見ているような気分になるおじさんである。
まるでホラー映画でも見ているような気分だ。
どこかの邪神でも崇めているのかとでも思いたくなる。
しかしその惨劇を作りだしたのは、自分であるという自覚はまだない。
「仕方にゃいにゃ!」
【広域治癒】
おじさんは治癒魔法を使ってみた。
にゃんこのポーズで。
しかしおじさんの魔法は御令嬢たちには効果がなかった。
むしろ症状が激しくなっている。
はて、と首をかしげるおじさんであった。
それも当然であろう。
なにせ御令嬢たちは怪我をしているわけではない。
ある意味で状態異常にかかっているようなものだ。
結論、それは魅了である。
だがおじさんは自覚がないのだから気づくわけもない。
困惑したような表情にあわせて、猫耳がへにゃりと動く。
「んんーにゃんでかにゃあ?」
おじさんはブレない。
そのブレなさが御令嬢たちを追い詰めていくのだ。
「ふへへへ。にゃんこ……にゃんこ……」
アルベルタ嬢が幽鬼のような表情で、怪しい手つきで虚空を撫でまわす。
御令嬢たちを見回しても、皆がどこか薬物中毒者のような虚ろな目をしている。
あれ? ひょっとしてマズいのではと、おじさんは思った。
そんな折のことである。
中空からキラキラと輝く神威の力が、おじさんに降りそそいできた。
何事かと思うまもなく、それは具現化する。
長めの猫のしっぽと、肉球つきのグローブであった。
なるほど。
確かに猫耳だけをつけたのでは、まだ浅い。
やるのならしっぽもグローブもつけろということか、とおじさんは判断した。
それは平たくいえば神具である。
おじさんの使い魔であるアンドロメダやアクエリアスと同じものだ。
つまりおじさんの魔力を吸って、勝手に契約をしてしまうのであった。
そしてなぜか猫耳も一緒に光となって、おじさんの身体に吸いこまれていく。
おじさんは目をつぶり、集中した。
カッと目を開いて、おじさんは宣言する。
「変身・猫ちゃんですわ!」
キラキラとしたエフェクトとともに、おじさんの周囲に光が集まってくる。
数瞬後におじさんは立派な――妖怪・猫娘になっていた。
「……これじゃにゃいにゃ」
どうしてこうなったのか。
それはおじさんにもわからない。
猫のしっぽとかどこいったという話である。
そしてまた神威の光がおじさんに降ってきた。
次の瞬間、おじさんは元の姿に戻っていたのである。
いったい女神はなにがしたかったのか。
首をひねるおじさんであった。
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