第118話 おじさんデジャブを感じてしまう


「深淵に潜みし傲慢なる穢れの王よ、太古の盟約に基づき願い奉らん! 憂い、嘆き、慟哭の彼方にある永久の王国を虚無へと還せ! 挽歌を誘え! 腐り果て、天上より見下ろす輩に鉄槌を! 血と肉を砕き、魂を生贄に! 今、ならん」


 おじさんにもかつて患っていた時期があった。

 そのときの名残である。

 いや生まれ変わっても馬鹿は直らないのだ。

 

 おじさんの詠唱とともに何かが集まってくる。

 と同時に魔法陣がきらめきながら、ドーム型を形成していく。

 

『待てええええええええ!』


「こっちだったらいけると思いましたのに」


『いける・いけないの話ではない! どうして! 主はそんな危険な魔法を使おうとするのだ!』


 使い魔の問いにおじさんは、はてと首をかしげる。

 

「だってトリちゃんが好きにしていいと言ったじゃありませんか?」


『ええい! だからと言ってだな、加減というものがあろうが! 積層型立体魔法陣などどこで覚えたのだ! あんなものは下手をしたら禁忌に触れるものぞ!』


「ならどんな魔法ならいいのです?」


『主がふだん使っているような魔法なら大丈夫だろうに』


“なるほど”と呟いたおじさんの背後に十を超える氷弾が出現する。

 しかし大きさがいつものよりも大きい。

 普段が銃弾サイズだとすれば、今回は拳大の大きさはある。


「いっきますわー」


【氷弾・改】


 その瞬間。

 平原の空間を裂くように氷弾が次々と飛んでいく。

 間を開けずに、“ゴバン”と音を立てて迷宮の一部が崩れてしまった。


「姉さま、壁壊した」


 アミラの一言におじさんの顔が曇る。

 

『な? 理解できたであろう?』


 使い魔がさらにえぐってくる。

 

『正直に言おう。主の魔法は既に人の領域を超越している。なので何かしらの制限をつけた方がいいと思うのだ。例えば前期魔導帝国時代に開発された魔力循環を阻害の指輪とかがあるな』


「なんですの、それは」


『うむ。体内の魔力循環を阻害する効果を持つ指輪でな。罪人に用いられていたものだ』


 なるほど、とおじさんは思った。

 ちなみにこの国では魔法が使える罪人には隷属の首輪を用いるのが一般的である。


「隷属の首輪とは違うものですか」


『あれは隷属化の契約をして魔法そのものを使えなくする道具であるからな。魔力循環を阻害するのとはまた違うぞ』


「ではそれの作り方を教えてくださいな」


『うむ。その方がよかろう。そうすれば本気で魔法を放っても問題ないと思うぞ』


「仕方ありませんわね、アミラ。また次の機会にお願いしますわ」


「ん!」


 アミラと手をつなぐと、おじさんは建国王たちのいる部屋へと戻ってきた。

 

「アミラよ、先ほど迷宮の壁が壊れたようだが」


「問題ない」


「で、あるか」


 建国王と三人組はどうやら世間話に興じていたようだ。


「建国王様、ではこの辺りで失礼させていただきますわ。アミラはどうしますの?」


 そもそも迷宮のコアがダンジョンを離れられるのかという疑問は抱かないおじさんであった。

 実際にはおじさんと契約したことで、アミラはおじさんの魔力とも繋がったのだ。

 結果として、ダンジョンからも離れられるようになった。

 

「姉さまと一緒」


 だがアミラは建国王をチラリと見た。

 

「余のことは気にせずともよい。なにかあれば喚ぶのでな」


“ん!”とアミラが頷く。


「ではお父様、陛下、閣下。わたくしは先に失礼します」


 とおじさんは転移したのであった。

 

 王城へと戻ってきたおじさんは気づいてしまった。

 アミラのことをどうしよう、と。

 人に見られたら問題になりそうだ。

 

「アミラ、姿を隠す魔法は使えますの?」


「ん?」


 と首をかしげる童女の頭をなでながら、おじさんは言う。

 

「ここは王城ですの。アミラの姿を見られると面倒なことになりますわ。なので少しだけ身を隠す魔法を使いますわね」


「ん!」


 と返事をするアミラに姿隠しの魔法をかけるおじさんであった。

 

 姿を隠したアミラを伴って、おじさんは王城からそそくさと退散するつもりである。

 しかし、それを邪魔する人間がいたのだ。

 

「ああ! リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワ! ちょうどいいところに!」


 宮廷魔法薬師筆頭のエバンス=グヘ・ボナッコルティであった。


「頼む! 私に付きあってくれ!」


 いつぞやと同じことを言われてしまったおじさんである。


「お断りしますわ!」


 なのでおじさんの返事もやっぱり同じだった。

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