第117話 おじさん魔法をぶっ放せ……


 おじさんとしてはアミラと契約することはやぶさかではないのだ。

 ただ本人の意思を確認しなかったことを後悔していた。

 しかしアミラ本人は、おじさんと契約を結ぶことしか考えていなかったのである。

 

 なぜなら、おじさんはアミラを生み出した女神と同じ香りがしたのだ。

 母と慕う女神と似たおじさんが、アミラはずっと気になっていた。

 そしてダンジョンの攻略に関しても、色々と手を回していたのだ。

 

「姉さま!」


 光が収束したダンジョンコアであるアミラは少し成長していた。

 おじさんの妹のソニアよりホンの少し上くらいの童女だったのだ。

 それが今は弟であるメルテジオと同じ年齢くらいに見える。


 少し丈が短くなったワンピース姿のアミラを見て、おじさんは微笑む。

 昔、誰も助けてくれなかった幼い自分も救われたような気がしたからだ。

 

「アミラ、確認したいのです。わたくしと契約してよかったですの?」


「お姉さましかいないもん!」


「ありがとう」


 とおじさんはアミラの頭をなで、抱きしめる。

 

“えへへ”とはにかむアミラであった。


コア、いやアミラよ。よかったな」


 建国王の残滓の声は優しい響きであった。

 

「うん! リチャードのおかげ!」


「と言うことで、だ。我が血に連なる者たちよ。迷惑をかけるが後はよしなに頼む」


 国王と宰相、父親の三人組は揃って膝をつき、頭をたれる。

 

「建国王陛下の望まれるがままに!」


「そう、大仰にせんでもよいと言うておろうに。そなたたちなら解っておるだろうが、リーのことも内密にな」


“ハ”と三人の声が重なった。


「姉さま、いいところに連れてってあげる」


 は? とおじさんが思ったときには景色が変わっていた。

 

「ここはどこですの?」


 周囲を見渡しながら、おじさんはコアたる妹に声をかける。

 その場所は未踏破区域で見た草原に似ていた。

 

「姉さま、黒いのを横どりされて怒ってた」 

 

 黒いの。

 ああ、あのエリアボスかとおじさんは思いだした。

 トリスメギストスが先走ってくれた一件のことである。

 

「だからここ。ここなら思いきり魔法が使えるよ」


「そうなんですの?」


 童女がこくんと首を縦に振った。

 

「魔力が吸収できる結界が張ってあるから」


 おじさん、目から鱗であった。

 そうだ。

 結界の耐性を上げるか、自身の魔法の威力を落とすかで悩んでいたのである。

 しかしデチューンはなかなかうまくいかなかった。

 

 力で対抗しようとするのではなく、吸収すればいい。

 おじさんにとっては思いこみ、盲点であった。

 

 おじさん、本気で魔法を使ってもいいのかもしれない。

 ただ自分では判断がつかない。

 そこでご意見番であるトリスメギストスを喚ぶことにした。

 

「トリちゃん!」


『うむ、我がトリスメギストスである。そこな童女がダンジョンのコアか』


「アミラ!」


『すまぬ。主に名を賜ったのだったな。我はトリスメギストスだ。よしなに頼む』


 童女は腕を組んで、偉そうに頷いていた。


『主よ、またとんでもないことになったな』


「なにがですの?」


『光神ルファルスラ様の鎧のことだ』


 そう言えば、いつの間にか身にまとっていた鎧が消えている。

 そのことに今、気がついたおじさんであった。

 

「その鎧のことは今はいいのですわ! それより魔法ですの!」


『主にとってはそちらの方が大事か。ここの魔力吸収なのだが、かなり優秀だな』


 その言葉にアミラが“うんうん”と首を振っている。

 

『まぁ危険だと思ったら、我がとめよう。主の思うがままにしてみるといい』


 こほん、とおじさんは咳払いをした。

 おじさんは目を閉じて集中する。

 思い描くのは、人生で一度は使ってみたかった大魔法だ。

 

 すぅと息を吸って、目を開く。

 

「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク!」


 おじさんの周辺に魔力が集まってくる。

 しかもそれはバチバチと音を立てて、火花まで散らしていた。

 これに驚いたのがトリスメギストスである。


『ちょ! 主よ! その詠唱はなんだ!?』


 森羅万象の叡智を司る者ですら知らない魔法。

 それもそうだ。

 だっておじさんが前世で憧れた魔法である。

 

 傲岸不遜で傍若無人。

 どんな理不尽があっても我が道を突き進む。

 そんな姿に憧れたのだ。


 おじさんの突きだした右手を中心に雷光のような魔力が可視化される。


「ぶっ放しますわよ!」


『待てえええええええ! 主、ダメだ。それ以上はいろんな意味でダメだ!』


 アミラは顔を真っ青にしている。

 おじさんの魔力、いや魔法が予想を遙かに超える勢いだったからだ。

 

『主!』


 テンション爆上がりのおじさんだったが、その声で我に返る。

 そして不承不承を隠せない表情で、魔力を霧散させた。

 

『主よ、それはあんまりだぞ』


「本気でぶっ放せると思いましたのに」


『いや今の魔法、本当に使っていたらダンジョンが崩壊していたぞ』


「残念ですわ」


 とおじさんはへこむのであった。

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