第116話 おじさんダンジョンのコアになつかれる
建国王から
おじさんは目線を合わせるために膝を折った。
「はじめまして。わたくしはリー=アーリーチャー・カラセベド=クェワと言いますの。リーと呼んでくださいな」
黒髪に黒い瞳。
黒いワンピースをきた童女である。
妹であるソニアよりは、少し年上といった具合だ。
童女はおじさんをぢっと見た。
建国王の足に掴まっていた手を離して、おじさんのところにトコトコと歩いてくる。
そして、スンスンと鼻を鳴らす。
「……同じ香り……」
“ん”と童女はおじさんに手を伸ばした。
その手をとっておじさんは軽く魔力を流してあげる。
そうした方がいいと思ったからだ。
「んん……」
童女がおじさんの魔力を感じとって身体を震わせる。
魔力の質が似ているのだ。
そして目を見開く。
「姉さま……わたしの姉さま」
童女がおじさんにヒシと抱きついた。
その表情は満面の笑みである。
“かかか”と建国王が童女の顔を見て笑い声をあげた。
「
しかし童女はその質問には答えない。
おじさんに抱きついて離れないのだ。
その理由をおじさんは理解できなかった。
ただ昔の自分を見ているような気分になってしまったのだ。
誰かに甘えたくても甘えられない。
孤独に耐え、心を押し殺して生きていた頃の自分と重なったのである。
だから、おじさんは童女を抱きしめた。
そしてその小さな頭をなでる。
「大丈夫ですわ。わたくしがついていますから」
その言葉に童女がわっと泣きだしてしまう。
おじさんはそれでもなでる手をとめない。
抱きしめる手を緩めない。
「リーよ、そのままでいい。少し余の話を聞いておくれ。その子はこのダンジョンを司る
建国王の話によれば、
仮に
ダンジョンとは神の試練であり、そして無限に資源を産出する重要なものだ。
なのでこのルールを知った踏破者たちは、皆が
破壊するメリットはなく、デメリットしかないからだ。
「で、だな。余の命は既になく、今はダンジョンの権能によって残滓がとどまっている状態である。いつ余は消えてしまうかわからないのだ。そこで新たなる管理者を探していたのだよ。ただその
“だから”と建国王は少しだけ言葉を切った。
「リーが謎を解き、ここに戻ってくると知ったとき
“リーよ”と建国王が問う。
「そなたには負担をかけてしまうこと申し訳なく思う。だがその子のなつくのだ。すまぬが、この話をうけてほしい。なに、迷宮の権限を多少持ったからといって何か役務が発生するわけではない。余が消えるまでは代行もしよう。だから、頼む。その子とともに生きてやってくれぬか?」
建国王の問いに対する答えは決まっていた。
「承りましたわ。この子はわたくしの妹です! よろしいですわね、お父様?」
おじさんに話を振られた父親だが、躊躇することなく首肯した。
「ああ! かまわない」
おじさんが童女の耳元で言う。
「あなたのお名前は?」
「姉さまがつけて」
「では、アミラという名はどうでしょうか?」
アラビア語では高貴なる女性を意味し、サクスクリット語では長命の者を意味する。
またヘブライ語では豊かな木々が並ぶ場所という意味になる。
おじさんの前世では縁起の良い名前なのだ。
なぜ知っていたのかと言うと、子どもが生まれたらと思って調べた時期があったからである。
しかしそのお相手はおじさん以外にお熱だったので、早々に諦めたのだ。
そういう意味では縁起が悪いのかもしれない。
しかし言葉の持つ意味からすると、ピッタリだと思ったのだ。
「アミラ?」
「そう、アミラですわ」
「うん。アミラ! アミラ!」
そう言った童女の身体がペカーと光った。
あ、とおじさんは思う。
これもしかして契約しちゃったのでは?
もちろん。
おじさんは予想は違わず、しっかり契約することになったのである。
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