第115話 おじさん今度こそお宝をもらう


 久しぶりは変かな? と思いつつもおじさんは建国王の残滓に礼をとった。

 国王、父親、宰相の三人組も礼をとっている。

 

「よいよい。我にそのような儀礼は不要ぞ」


 鷹揚な建国王の残滓である。

 

「さて、なにをしにきたのかと問うまい。既に聞いておるぞ、リー」


「はい。かの試しの結果によって、本日はまかりこしました」


「うむ。では早速だがリーに渡すものがある」


 建国王の足下で魔法陣が光りながら、クルクルと回る。

 そこから出現したのは、黄金に輝く鎧であった。

 しかしよくよく見ると、籠手にあたる部分に違和感があるのだ。

 

「余は光神であるルファルスラ様の寵児という称号を持っておってな」


 寵児。

 それは神託の儀における称号のひとつだ。

 最も多いのが“加護”と呼ばれるものになる。

 その上の扱いが“祝福”だ。

 この祝福であっても滅多にはいない称号である。

 

 まぁおじさんの家族には祝福持ちが多いのだが、それはまた別の話だ。

 

 さらに祝福の上ともされるのが“寵児”や“巫女”に“聖女”といった称号になる。

 ちなみにおじさんの“神子”は前代未聞である。

 

「このダンジョンを攻略したことによって、光神ルファルスラ様から認められ下賜されたのだ」


 光神ルファルスラ。

 おじさん、籠手の部分に心当たりがありすぎる。

 デキる使い魔であるアンドロメダのことだ。

 

「しかし、余は既に肉体なき存在であるからな。誰かに継いでほしいと思っていたのだ。リーよ、魔力を流してみるといい。鎧に認められれば、そなたが主となる」


「おことわり……」


 おじさん。

 ちょっと遠慮したかったのだ。

 

 確かに惹かれるものがある。

 だって黄金の聖なる闘衣よろいなのだ。

 残念ながら、おじさん生前は蟹座であった。

 蟹座は不遇なのだ。

 

 この黄金の聖なる闘衣は、フォルム的に水瓶座に似ている。

 しかも領巾ひれのようなものもついていて、神聖さとゴージャスさが増していた。

 今さらおじさんが知る由もないが、それは水瓶座の神なる闘衣よろいっぽい感じだ。

 

 水瓶座はおじさんの憧れだった星座だ。

 正直に言えば、ほしい。

 

 ただ、おじさんの後ろにいる三人組が気になるのだ。

 ここで素直にもらってしまっていいのだろうか、と。

 きっと面倒なことが起こるにちがいないと思ってしまった。

 

 しかし、現実とは残酷なものである。

 

 おじさんの意思に反して、光神の鎧が勝手に明滅した。

 それに呼応するように、喚んでもいないアンドロメダがでてくる。

 

「おお! それはまさか!」


 建国王の残滓が光神ルファルスラの鎖を見て、興奮した声をあげた。

 

 りぃん。

 りぃん。

 りぃん。

 

 と共鳴するような音を立てて、アンドロメダと鎧が明滅を繰りかえす。

 

 ここまでくれば仕方がない。

 もう何を言っても、取り繕うことはできないだろう。

 おじさんも覚悟を決めた。

 

「きなさい」


 と秘めていた魔力を解放する。

 おじさんの魔力の波動に呼応するように、光神の鎧がペカーと光った。

 そして光の粒子になって、おじさんの身体に吸いこまれるようにして消えていく。

 

「あなたの名前はアクエリアス! わたくしの盾となり、この国を、この世界を守護するものですわ!」


 おじさんの全身から、まばゆい光が放たれる。

 その光が収まったあと、おじさんは全身が白銀に輝く鎧に包まれていた。

 アクアブルーの幾何学模様が入ったそれは、籠手であるアンドロメダと同じデザインだった。

 

 その姿はまさしく戦う女神であった。

 勝利をもたらす者である。

 

 おじさんのその姿を見て、“ふはははは”と建国王は声をあげて笑った。

 国王たち三人組は声もでないようだ。

 ただただ目を見開いて、おじさんの姿を見ている。

 

「リーよ、そなたこそがふさわしい」


「確かに賜りましたわ、建国王様」


 ふふ、と笑って建国王の残滓は続ける。

 

「どうだ? そなたの目から見てもリーはふさわしかろう?」


 その言葉はこの場にいない者に対してのものだった。

 はて、とおじさんが思ったときである。

 建国王の側に妹よりも少し年長くらいの童女が姿をみせた。

 

 黒髪に黒い瞳。

 それは前世のおじさんにとってなじみの深い色だった。

 

「紹介しよう。この子はこの迷宮の真なる主、コアだ」


 どうやら建国王の贈り物はまだ終わらないようである。

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