第114話 おじさん建国王を訪ねる


 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの勉強会は無事に終了した。

 聖女とアルベルタ嬢が言い争いをする一幕もあったが、それそれで盛り上がったのだ。

 また、裏庭を散歩するクリソベリルを見たパトリーシア嬢が抱きつきに行く事故もあった。

 

 それでも試験の前には、また公爵家邸で集まろうと約束までしたのだ。

 皆、なぜかおじさんを見て、ポッと頬を赤らめていたが。

 

 そんな翌日のことである。

 おじさんは父親に朝から頼まれごとをしていた。

 もちろんくだんの人をダメにするマッサージチェアの件だ。


 先日のことである。

 妙にスッキリとした顔で登城した父親を見て、兄である国王が詰めたのだ。

 結果、おじさんの作った禁断の椅子にまで話がいたってしまう。

 根本的に仲の良い兄弟なのだ。

 で、特別に王家の私室でのみ使うという条件で父親が折れた。

 

 申し訳なさそうな表情で父親がおじさんに言う。

 

「無理はしなくていいんだ。けど、どうしてもって言われてしまってね」


「かしこまりましたわ。では二脚、納品ということで」


「悪いね、リー。この埋め合わせはどこかでするから」


「かまいませんわ。お父様こそ、そんなに気をつかっていたら大変ですわよ」


“それと”と父親が付け加える。

 おじさんが登城して、建国王の元へ行く準備が整ったとのことだ。

 いかに王位継承権を持つ公爵家の令嬢といえど、好き勝手に登城はできない。

 登城するための体裁が必要になってくる。

 

 ついでのように言われてしまったことだが、おじさんにとっては大きなことだった。

 建国王のいうお宝とはなんなのか気になっていたのだから。

 と言うことで、おじさんは学園の講義が終わると、薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの会合には出ずに登城することにした。

 

 王城まで馬車で行くおじさんだが、もう既に衛兵たちの間では顔パスである。

 カラセベド公爵家の紋章が入った馬車だというのもあるが、やはりおじさんは覚えられているのだ。

 滅多にお目にかかれない超絶美少女である。

 

 衛兵たちにしても自分の手が届かない高嶺の花であるのはわかっているのだ。

 だがそれでもワンチャン夢を見てしまうのは男のサガというものだろう。

 

 しかしそんな衛兵たちの思いを理解しているからか、おじさんの護衛騎士はピリピリしている。

 “我らがリーお嬢様に邪な目をむけるな”とでも言いたげに鉄壁のガードをするのだ。

 それは、ここのところ王城でよく見られる風景であった。

 

「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます」


 おじさんは国王に対して、見事なカーテーシーを決めた。

 いつもの私室である。

 国王・父親・宰相と面子もいつもの人たちだ。

 

「うむ。話は聞いているぞ、リー。よく謎をといたな!」


「いえ、わたくしの力だけではありませんわ。お父様にも手伝っていただきましたし」


 などと挨拶を交わして、転移ができる尖塔へと連れだって移動する。

 その折りに宰相が口を開く。

 

「ああ、そうだ。リー、悪いんだけどね、先日の話はなしになったよ」


「先日の話ですの?」


「宝物庫のことだよ。随分と力説していただろう?」


 と宰相に言われておじさんは思いだした。

 宝物庫がきれいに整理されていて、これではロマンがないと言ったのだ。

 

“ああ”とおじさんが呟くと、宰相が苦笑する。


「あの日、リーが言っていたことがきっかけでね。ハリエット様に確認をとったんだ」


 ハリエットはおじさんの祖母である。

 祖母から借りた本のことを話してから、雰囲気が悪くなったのだ。

 思いだして、おじさんはぎくりとしてしまった。

 余計なことを言ったのか、と。

 

「まったく叔母上にも困ったものだ。まさか禁書庫に忍びこんで拝借されていたとはな」


 国王が愚痴めいた話を始める。

 

「妃の件もあったからな。再度、警備を引き締める意味もこめて管理しやすいようにすることになったのだ」

 

 結果として宝物庫もしっかり管理するために、おじさんの案は却下されることになった。

 ロマンがないのは残念だが仕方がないと思う。

 あのときは少々熱くなりすぎてしまったのだ。

 

 そうこうしている間におじさんたちは転移ができる尖塔の部屋へついた。

 魔法陣を起動して、そろって転移する。

 

「お久しぶりですわ、建国王様」


 こうしておじさんたちは再び建国王の残滓と会うことになったのである。

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