第107話 おじさん母親と妹と露天風呂ではしゃぐ
ここのところ、おじさんは鬱憤がたまっていた。
その鬱憤を存分に晴らしたのだ。
すがすがしい気分で食事ができた。
「ねえさま、そにあとあそぼ」
食事が終わり、まったりとした空気にひたっているおじさんである。
そろそろ露天風呂にでも入ろうかと思っていたところに、妹がトコトコと歩いてきたのだ。
にぱっと笑う妹の頭をなでてやりつつ、抱き上げて膝の上にのせる。
「ソニア、わたくしこれから入浴しますの」
「そにあもいっしょにはいる!」
おじさんの問いに即答する妹であった。
弟の方を見て、おじさんは声をかける。
「メルテジオも一緒に入る?」
「ぼ、ボクはいい! もうお風呂に入ったし!」
若干だが顔を赤らめている弟である。
恥ずかしくなってくるお年頃なのだろうか。
「露天風呂に行きますから、気がむいたらいつでもおいでなさいな」
そんなやりとりを見ていた母親が言う。
「じゃあ露天風呂へ行きましょうか」
三人で食堂をあとにして、露天風呂へと足をむけるのであった。
露天風呂におじさんが以前作ったアヒルが浮いている。
どうやら気を利かせた使用人が用意してくれたのだろう。
妹のお気に入りだからだ。
おじさんは妹の身体をお湯で流してやり、湯船へと足をつけた。
ずっと作業をしていたからか、自分でも気づかないうちに筋肉がこわばっていたようだ。
あたたかいお湯が、その疲れをほぐしてくれる。
「ふぅうう」
息を吐くと、母親からも同じような声が聞こえてきた。
妹はすでにアヒルのおもちゃに夢中である。
おじさんはそこで少し悪戯心がわいた。
ちょいと魔法を使って水の流れを作ったのだ。
すると、アヒルのおもちゃが動きだす。
「ねえさま! みて! およいでる!」
妹がキラキラとした目をむけてくる。
“ほおん”と母親から声があがった。
するとアヒルの群れがジグザグに、隊をなして動きだす。
「すごい!」
妹が手を叩いて喜んでいる。
そんな様子を見つつ、おじさんは母親を見た。
ニマニマとしている。
「リーちゃん、面白いこと考えるわね」
「ちょっとした思いつきですわ」
「んんーでもこれってなかなかの難度よ。ただお湯を動かせばいいってわけじゃないし」
「そうですの? ソニアのいい練習になると思ったのですが」
「もう少しなれてからでないと難しいかもしれないわね」
などとのんびりと母と娘が会話をしている最中でもアヒルは動いている。
今や妹の身体の周りをぐるぐると回ったり、不規則だが統制のとれた動きを見せていた。
「では、こういうのはどうでしょうか?」
おじさんが言うやいなや、妹の目の前からお湯でできた小さなイルカが飛び上がった。
「おさかな!」
「ああ、そのくらいならいいかもしれないわね」
と妹の周りに子猫や子犬が飛びだしてくる。
「きゃあああ!」
妹が悲鳴をあげるように叫んだ。
もはやテンションが限界を振り切ったのだ。
「ねえさま! かあさま!」
“うふふ”と笑みをうかべる母親である。
妹を見るその眼差しはとても優しいものであった。
そして。
おじさんはと言えばスイッチが入ってしまう。
たまっていた鬱憤が晴れたのだ。
気分がよかったのだ。
そんな下地がおじさんのサービス精神に火をつけた。
「ソニア、もっと面白いものを見せますわよ」
おじさんが指をスナップさせて音を立てる。
すると露天風呂の周辺に色とりどりの光球が出現した。
淡く光る光球によって、露天風呂が一気に幻想的な雰囲気になる。
おじさんが指揮をとるように指を動かすと、高さ十メートルほどの水柱が立つ。
また指を動かすと従うように水柱はスッとお湯の中に消えてしまう。
次は同じ高さほどの水壁がドンと音を立てるように出現した。
光球の影響をうけて、虹色に光るカーテンのようなものだ。
しばらくすると水しぶきをあげて湯船の中に消えていく。
ウォーターショーであった。
おじさんも実際に目にしたわけではない。
どこかで見た映像の記憶を頼りにして、お湯を操っていく。
「なるほど、理解したわ」
そこへ母親が妹と同じくキラキラした目で言う。
どーんと音を立てるように、バカでかい水柱が立つ。
妹はもう驚きをとおりこして呆気にとられていた。
口が半開きになっている。
「ふふ……ではこういうのはどうでしょう?」
おじさんがお湯を使って巨大な
「あら。おもしろいわね」
母親も負けじと伝説の
お湯で作られたはずなのに、なぜか火をまとっている怪鳥が夜空を舞う。
公爵家のタウンハウスからは、父親と弟が露天風呂からあがる水柱を見ていた。
「父様……ソニアもいずれ……」
「うん……だろうね、きっと……いやもう手遅れかな」
言葉にはしない。
だが二人は理解していた。
こうして引き継がれていくのだ。
頭のネジが外れた魔法使いというものが。
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