第104話 おじさんゲームセンターの骨子を語る


「リー?」


 うつむき、肩を震わせているおじさんを見て、父親が声をかける。

 

「だ、大丈夫ですわ」


 少しだけ声が震えるおじさんであった。

 でももう大丈夫。

 切り替えるのが早いのがおじさんの特技だ。

 

 指でそっと目をぬぐって、おじさんは顔をあげた。

 笑顔。

 無理をして作っているのではない、本当の表情であった。

 

「お父様、お母様。わたくし、薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動もしたいですわ。でもこのお屋敷に遊戯室を作るというのも魅力を感じていますの」


 正直に言う。

 それがおじさんのだした結論である。

 

「どちらの方が大事と順位はつけられません。だってどちらも大切なことですから」


 そんなおじさんの決意を聞いて、母親は“そう”と頷いた。

 

「うん、リーちゃんがそうしたいのならそうしなさいな」


“興味があるってことは”と父親がおじさんが目を向ける。


「なにかしら今の話を聞いて考えていることがあるのかい?」


 おじさんはこくりと首肯した。

 

 おじさんの考えとしてはいくつかある。

 例えばおじさんよりも上の世代で流行ったのがプールバーだ。

 恐らくは映画の影響などもあるのだろうが、おじさん的に遊戯室と言えばビリヤードは欠かせない。

 ちなみにプールというのは、ビリヤードの種目のひとつである。

 

 他にもおじさんがイメージするのは、簡易的なラウンドカジノだ。

 要するにカードゲームやルーレットを楽しめるテーブルがあるタイプになる。

 カジノというのは社交場でもあるため、父親や国王が考える目的に沿うと考えたのだ。

 

 おじさん的には先日お披露目したゲーム以外にも隠し球はある。

 なにせ思いつくままに、再現できるゲームを作ったのだから。

 

 いずれにせよ、部屋のイメージとしてはゴージャスでラグジュアリー感のあるものがいい。

 そしてお酒が提供されるバーカウンターがあるとなお良しである。

 

 自分が持つ遊戯室のイメージを伝えるおじさんであった。

 この世界において社交場と言えば、サロンのことになる。

 男性が主に利用するサロンもあり、そちらは喫煙することも可能だ。

 

 公爵家でもそうだが、サロンにはいくつかのタイプはある。

 要は親しい者だけが集まるような私的なサロンや、賓客をもてなすためのサロンだ。

 おじさんの伝えたイメージは、賓客をもてなすようなサロンに近いだろう。

 

 そのため父親も母親もなんとなくイメージはできたようである。

 ただ遊戯室といっても、ビリヤード台などを置くのならある程度の広さが必要だ。

 空間拡張の魔法を使えば解決はできるだろうが、タウンハウスの一部を改修というよりも増築した方が早いかもしれない。

 

「たしかにリーの言うとおりだね。リーのお陰で随分と稼いでいるから、費用的には問題はないんだけど増築するとなると兄上に許可を取る必要があるかな」


 顎に手を当てて、思考に入る父親である。

 その様子を見ていた母親が声をかけた。

 

「ねぇスラン。思うのだけど、それならいっそのこと裏庭にあるお風呂も含めたらどうかしら?」


「裏庭のお風呂ってリーの作ったアレかい?」


「そうよ。リーちゃんと朝から一緒に入ったんだけど、とっても気持ちよかったわ」


 なるほど、とおじさんは思った。

 母親が提案しているのはリゾート施設のようなものだ。

 そう言えば簡易拠点であるログハウスと、露天風呂は“お好きに使ってくださいな”と言ってずっと放置したままだと今さらながら思う。

 

“んー”と思考を巡らしつつ、父親はおじさんを見た。


「リーはそれでいいのかい?」


 おじさん的にはオールオーケーな提案である。

 そもそも簡易拠点も露天風呂も、おじさんには予備があるのだ。

 

「かまいませんわ。他にもきちんと確保してありますから。でもせっかくですから、両方作ってしまいませんか?」


 どうせなら二つあってもいいと思ったのだ。

 というかバリエーションがあれば、どちらを作るべきかも議論ができる。

 あとおじさん的にはお金が貯まりすぎているので、ここらでドカンと消費しておく方がいいと思った。

 

 経済の詳しいことはわからないおじさんである。

 しかし聞きかじりで、上の者が積極的にお金を使わないといけないことは知っていた。

 

 そんなこんなでカラセベド公爵家における遊技場計画がスタートしたのだ。 

 



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おじさんを読んでくださってありがとうございます。

最近リアルの仕事が忙しくてコメント返しができていません。

また少し落ちついたら返させていただきます。

コメントをいただいた方には申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


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