第103話 おじさんゲームセンター開発計画に参加する


 建国王の魔道具の問題は一段落した。

 ということで、おじさんは散らかしていたものを、宝珠次元庫へと片づける。

 

 その間にお茶の用意をしてもらったのだ。

 両親はもう夜も深い時間とのことで、お酒を楽しんでいる。

 

“さて”と父親が口火を切った。


「リーにも聞いてほしいことがあってね。以前していた話なんだけど……」


 それはゲームセンターのことだ。

 おじさんのゲームで熱狂した公爵家の面々は、これを一大事業にすることにした。

 母親が提案した遊園地的なものは、王都では不可能である。

 領地で開発に着手することになるだろうとのことだった。

 

 で。

 ここから話が大きくなる。

 実はおじさんお手製のミニボウリングや、コマはじきゲームは国王にも献上されたのだ。

 半ば父親の自慢もあった。

 

 “いやぁうちのリーちゃんがこんなものを作りましてねぇ”というヤツである。

 それは国王と王妃の二人に、とてもとても気に入られてしまった。

 そこで色々と話を詰めていたときに、父親がふと漏らしたのだ。

 

 “遊技場を作る計画をしている”と。

 

 当初は公爵家が適当な土地を買い上げて作る予定だったそうだ。

 しかし国王を巻きこんだことで、その候補地が王城にもなってしまう。

 貴族が利用するためのものでもあり、他国の来賓があったときの饗応きょうおうにも利用できるからだ。

 

 ただいきなり王城に作るのもいかがなものかという慎重な意見もあった。

 そこでまずはカラセベド公爵家で、遊技場を作ってみてはということになったそうだ。

 要するに様子見である。

 

 タウンハウスの一部を改修して遊技場を作るというのだ。

 そのことを父親はおじさんに相談したいのであった。

 

「ということでね。リーにも計画に参加してほしいんだよ」


 おじさん的には参加してもいいと思っている。

 いや参加すれば面白いことができると確信があるのだ。

 

 ただあまり時間をとられたくはなかった。

 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの会合のためである。


 御令嬢たちのやる気はうなぎ登りである。

 なにせ初級精霊を育てるという方式にハマってしまったのだから。

 おじさんとしても自分が提供したのだから、しっかりと責任を持ちたいのである。

 

 ただ本格的に動くとなると、時間がとられるのはほぼ確実だろうと予測がついた。

 奇しくも学生会の会長に言った方便、“時間がとれなくなるかもしれませんの”が本当になってしまったという話だ。

 

「それはかまいませんが……」


 おじさんはあえて言葉尻を濁した。

 

「ああ、大丈夫だよ。リーの負担にならない範囲でいいから。こんな話をしておいてなんだけどね、嫌なら断ってくれてもいいんだ」


「お父様」


「友だちができたんだろう? だったらそちらを優先した方がいいに決まっているじゃないか」


 父親の隣にいる母親が笑顔で頷いている。


「リーはね、小さい頃からがんばってきたよね。で、今ようやく友だちができて楽しいんだろう? それでいいんだよ。学生のときにしかできないこともあるからね」


“それでも”と父親は続ける。


「リーは私たちじゃ考えもつかないことができるから、どうしても頼ってしまうことがある。だけどそれは私たちの本意じゃないんだ。私たちはできる限り、リーのことを支えたいんだから」


「そうね。リーちゃん、もっとワガママであってもいいのよ。リーちゃんが思っているほど私たちはやわじゃないんだから、大丈夫よ」


「いいのですか?」


“もちろん”と父親と母親が首肯する。


 ありがたい話だ。

 うつむいたおじさんはぎゅっと手を握る。

 前世の親はろくでもなかった。

 一時期は誰も信用できないほど荒れたこともある。

 

 誰もこんなに優しい言葉をかけてくれなかったから。

 誰もおじさんのことを慮ってくれなかったから。

 

 だから。


 辛くても。

 苦しくても。

 助けてもらえなくても。


 おじさんはひとりでがんばるしかなかったのだ。

 

 倒れても砂を握って立ち上がったのだ。

 だって倒れたままじゃ、もっと踏みつけられるから。

 

 ぽとり、と握った手に雫が落ちた。

 

 今生では好きにさせてもらってきた。

 大事にされてきたという実感もある。

 それでもまだ思い知ってはいなかったのだ。

 

 両親からどれだけ大切に思われているのか。

 

 おじさんはこの出会いを作ってくれた女神に改めて感謝するのであった。

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