第102話 おじさん建国王の本の秘密をとく
「キターーーー!」
つい地がでてしまったおじさんである。
そんなおじさんの姿を見た父親がぎょっと見開いていた。
「スゴいわ! リーちゃん!」
母と娘がハイタッチをして、ぐるぐるとダンスをするようにステップを踏んで回っている。
“ごほん”とわざとらしく咳払いをする父親である。
「ヴェロニカ、リー、ちょっと落ちつきなさい」
ハッとして顔を見合わせる似たもの親子である。
“ごめんなさい”と素直に謝って、二人して席につく。
魔道具からでてきた本の表紙にはなにも書かれていない。
そもそも魔道具、いや魔本でもないのだ。
三人で肩を寄せ合うようにして、ページをめくってみる。
古語で書かれてはいるが、中身はただの日記のようだ。
んん? とおじさんは思う。
日記? なんで?
また何かしら秘密があるのだろうか。
いやあるはずだ。
そう確信して、おじさんはトリスメギストスを召喚することにした。
「お父様、お母様、ちょっとトリちゃんを召喚しますわ!」
言うやいなや、トリスメギストスが魔法陣から出現する。
「トリちゃん、この本を解析してくださいな」
『うむ。任された!』
トリスメギストスの権能である。
書籍そのものを自身と繋がる万象ノ文殿に複製できるのだ。
そして複製した書籍の中は、すべてトリスメギストスが一瞬で閲覧できる。
『主よ、中身はただの日記だな。取り立てておかしな部分はないが……』
「そんなはずはありませんわ!」
おじさんが声をあげたときである。
揃って原本を見ていた父母であるが、父親から声があがった。
「わかった……かもしれない」
「お父様!」
「さすがね、スラン!」
母と娘からキラキラとした目をむけられて、若干だが顔がこわばる父親であった。
「ここ、ページ数がおかしいんだよ」
そう。
この本には日記なのにページ数がふられていたのである。
几帳面な父親はきちんと数字を見ていたのだ。
というか職業病でもある。
外務のトップとして書面は隅々まで、注意深く見る癖がついていたのだ。
「ほら、前のページが六なのに、ここは五になっている。これが正解なら他にもあるはずだ」
こういうときこそトリスメギストスの出番である。
なんとなくパソコンを思いだすおじさんであった。
「トリちゃん、検索をかけるのですわ!」
『大得意である!』
トリスメギストスの宝珠が光った。
『ページの数字がおかしいのは全部で十四だな。ついでにその意味もわかったぞ』
「なんですの?」
『数字のおかしいページの冒頭から、まちがっている数字が指定する文字をつなげてみたのだ。結果はダンジョンにあるわがやしきに、である!』
パソコンより高性能だった。
おじさんはホンの少しトリスメギストスを見直したのである。
だが口にはしない。
すぐ調子にのるから。
「もう思わせぶりね!」
母親が頬をふくらませていた。
その姿は妹のソニアに似ている。
いやソニアが母親に似ているのだろう。
「これは仕方ないね、また持ち越しだ」
“ぐぬぬ”と歯がみするおじさんである。
まるで昔のゲームのようだと思う。
おじさん、随分と大人になってからレトロなゲームにはまった時期があるのだ。
子どもの頃にしたくても高嶺の花だった。
しかしおじさんがいい年齢になった頃、安価な復刻版がでたのだ。
そうしたゲームの思い出がよみがえる。
目的のアイテムを手に入れるまで、いくつものお使いを強制されるのだ。
酷いものになるとたらい回しにされている間に、目的はなんだったっけ? となるケースもあった。
そう。
おじさん、そうしたゲームで耐性はあったのだ。
しかし褒美という割には、随分と迂遠な方法である。
そのことに否が応でも期待してしまうのだ。
ここまでして隠すのだから、とんでもないものがあるのでは、と。
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