第99話 おじさん使い魔と戯れる


「――ということなのですわ」


 おじさんは説明をした。

 最初はしんどいかもしれないが、根気よくやっていくものだと。

 そして魔力は使えば、魔力量の増加にもつながる。

 つまり一石二鳥なのだ、と。

 

 聖女やアルベルタ嬢を筆頭に刻印召喚陣で契約できた者とはちがう。

 飽くまでも救済措置なのだが、時間をかけて努力すればいいきちんと下級精霊にまで育ってくれる。

 一生かけて付きあっていけば、やがては中級の精霊にだってなれる可能性はあるのだ。

 

 ただ初級精霊は自我が固まっていない。

 故に各自の権能とも呼べる特殊な能力は使えないのである。

 しかし初級精霊が育つことで、召喚主にもメリットが増えていく。

 

 その話を聞いた薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの面々は、俄然がぜんやる気に満ちた。

 初級精霊は生まれたてである。

 その姿は動物型が多いが、ヒト型もいるのだ。

 要するに愛らしい姿のものが多い。

 そのお世話をすると、成長していくのだと聞けばやる気もでる。

 

「ただし、魔力の使いすぎには注意ですわよ」


 この世界においては魔力というのは人体にも大きく影響する。

 もし枯渇するようなことがあれば、それは死にもつながるのだ。

 なので魔力が減っていくと、身体に不調がでるという形のサインが送られる。

 かわいいからといって無茶をしてはダメだ、とおじさんは釘を刺したのであった。


「リーお姉さま!」


 パトリーシア嬢が手をあげて発言する。

 

「私の使い魔も見てほしいのです!」


 と、おじさんの返答をきく前に召喚してしまう。

 パトリーシア嬢の使い魔は、新緑色の髪色をした幼女であった。

 ただし身体には茨のトゲがついた蔓が巻きついている。

 おじさん的にはアルラウネのイメージだ。

 

「アルルと言うのです! 植物の力を使えるのです!」


 アルルと呼ばれた幼女はおじさんを見て、うっとりとした表情をうかべた。

 

『御主人様、こちらの御方は女神様なのですか?』


「そうなのです! 女神さまなのです! そしてお姉さまなのです!」


『はじめましてお姉さま、アルルです』


 ちょこんとおじぎをする幼女が愛らしい。

 おじさんは膝を折って、目線を下げる。

 

「リー=アーリーチャー・カラセベド=クェワですわ。よろしくね、アルル」


 その小さな頭をなでると、“はわわ”と幼女が顔を赤らめる。

 

「リー様! 私の、私の使い魔も見てくださいな!」


 アルベルタ嬢の腕にはすでに純白のウサギが抱えられていた。

 

「この子は玄兎のシフォンと言いますの」


 玄兎。

 月の異名であり、月に住むといわれるウサギのことである。

 この世界でも月はあるが、ウサギがいるとする迷信はない。

 だったら、なぜ玄兎なのだという野暮なことは言いっこなしなのだ。

 

 玄兎という言葉の響きに、おじさんがかつて患っていた中二の心がざわめく。

 だがそんなことよりも見た目の愛らしさが抜群だった。

 

“きゅきゅ”と鳴いて、アルベルタ嬢の腕からおじさんの胸に飛びこんでくる。

 しっかりとキャッチして、その背をなでた。

 おじさんの使い魔クリソベリルやオブシディアンとは、またちがった毛なみである。

 

 魅惑のもふもふに、半ばうっとりとしていたおじさんを引き戻したのは聖女だった。

 

「きなさい、第四位の天使! キュリオテテス!」


 あ、これはマズいと思ったおじさんである。

 神器である万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーほどではない。

 が、中級精霊では最上位に位置するのが、聖女の使い魔である。

 その威圧感は疑似召喚魔法による初級精霊には、ちょっと荷が勝ちすぎるのだ。

 

 おじさんは咄嗟に対抗魔法を放っていた。

 それは召喚魔法の魔法陣を上書きして無効化するものだ。

 

「ちょっと、リー!」


「エーリカ、さすがにキュリオテテスはダメですわ」


 初級精霊たちに悪い影響がでるかもしれないと説明をする。

 その説明を聞いて、納得したのか聖女はあっさりと矛をおさめた。


「せっかくお披露目できると思ったのに。でもまぁ仕方ないわね!」


「ええ。また別の機会にお願いしますわ」


 ということで、初級精霊が暴走するような結果を招かずにすんだのである。

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