第98話 おじさん薔薇乙女十字団に疑似召喚魔法を教える
ああ、これは美味しい。
おじさんは心からそう思った。
前世の記憶にあるハンバーガーは、ペラペラのお肉のものしか口にしたことがない。
そう。
おじさんがまだ若いときに投げ売りされていた時期があったのだ。
その頃にありがたくいただいた記憶が鮮やかによみがえる。
念願のハンバーガーだったのだ。
チェーン店のものでも、シンプルな具材と味つけ。
それでも美味しいと感じた。
今、おじさんが口にしたのは、もっと本格的なものだ。
肉が分厚く、しっかりと味がする。
なんというか濃厚なのだ。
そして脂が美味い。
肉の脂を中和させるような葉物野菜のフレッシュ感も最高だ。
何よりおじさんが驚いたのはマヨネーズである。
タマゴの味が濃く、極上の味に仕上がっていた。
「美味しいですわ!」
「でしょ! こだわりのハンバーガーなんだから!」
と聖女がおじさんにむかってサムズアップをしてくる。
おじさんも同じポーズで応えた。
「リー様、失礼いたします」
アルベルタ嬢がおじさんの口まわりをサッとハンカチでぬぐう。
「ありがとう」
“どういたしまして”と返しつつ、アルベルタ嬢はハンカチを自分のポケットにしまった。
「リーお姉様、美味しかったのです?」
パトリーシア嬢が不安そうな表情で聞いてくる。
「ええ。とっても美味しいですわ。少々はしたなくてもいいではありませんか? ここにはわたくしたち、
「リー様がそう仰るなら」
とアルベルタ嬢が、“えいや”とハンバーガーを押しつぶす。
そして両手で持ち上げて、小さくかぶりついた。
次の瞬間、目を大きく見開いて飲みこんだ。
「美味しいですわね」
「ね? ほら、みんなも食べてちょうだい。小さくかじりついたら大丈夫よ」
聖女の言葉に皆の視線がアルベルタ嬢にむく。
確かに聖女のように、べったりとソースがついたりしていない。
それならと御令嬢たちも指を動かしたのであった。
食事はマナーを守るもの。
そう思いこんでいた御令嬢たちにとって、それは新鮮な体験だった。
手で掴み、かじる。
付け合わせのポテトフライも、オニオンリングもいい。
味がよければ、話にも花が咲く。
それこそチェーン店にいる女性中高生のような賑やかさだった。
聖女もその姿を見て満足していたのである。
お腹もくちくなったところで、おじさんは本題に入ることにした。
「アリィから聞いたのですが、昨日は疑似召喚魔法に挑戦したと。それでどのような部分がうまくいかなかったのでしょう?」
おじさんの問いに代表してアルベルタ嬢が答える。
「召喚するところまではうまくいくのですわ。ただ精霊との意思の疎通がうまくできませんの。それと各自の権能についてもよくわからなくて」
“なるほど”とおじさんは問題点を理解した。
そもそも召喚魔法は魔力をバカ食いする燃費の悪いものだ。
これを十全に使いこなすには、一に魔力、二に魔力、三四がなくて五に魔力である。
つまり魔力量がものをいう。
そこでおじさんは疑似召喚魔法において、魔力が少ない者でも召喚できる対象を広げた。
刻印召喚陣では最低が下級精霊になる。
この精霊種との契約でさえ、魔力量が不足すると契約できないのだ。
で、おじさんは下級精霊になる前の初級精霊とも呼ぶべき存在を対象にしている。
この世界における精霊とは万物に宿るものであり、魔力の
しかし生まれたばかりの精霊は、まだ自我に乏しい。
故に自我がハッキリとした下級精霊が面倒をみるわけだ。
そうした年月を経て、下級精霊へと至るのである。
つまり初級精霊と意思の疎通をすることは難しいのだ。
ただなにもできないわけではない。
初級精霊は学んでいくのだから、積極的に召喚し絆を作ることで成長させていけばいいのだ。
召喚主と関われば関わるほど、成長の度合いも進んでいく。
そう。
おじさん的には卵形の育成ゲームをイメージしていたのであった。
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