第97話 おじさん薔薇乙女十字団の会合に出席する


 国王がおじさんの祖母のことで頭を抱えたこともあり、おじさんはそそくさと撤退した。

 のんびりと魔道具を見て、遊んでいる空気ではなかったとも言える。

 おじさん、そうした雰囲気には敏感なので方針転換をしたのだ。

 もちろん魔道具など持って帰れるものは、すべて宝珠次元庫に収納してである。

 後日、報告をすると言い残しておじさんは帰った。

 

 あとでどんな話し合いが行なわれたのかは知らない。

 その辺のことは知らない方がいいのだ。

 また祖母から話を聞くこともあるだろう。

 

 明けて翌日。

 この日も学園である。

 朝から上機嫌な父親と話をし、帰ったら建国王陛下のお宝を見ようということで落ちついた。

 

「ごきげんよう、アリィ」


 おじさんの姿を見て、駆けよってくるアルベルタ嬢に挨拶をする。

 今日もおじさんは超絶美少女であった。

“ほう”と息を飲んだアルベルタ嬢が、ひとつ拍子を遅らせておじさんに頭を下げる。


「おはようございます、リー様」


「なにかありましたの?」


「いえ……そうですわね。リー様、本日の放課後は空いておりますの?」


 一瞬だけ思案してアルベルタ嬢が、おじさんに質問をする。


「ええ、大丈夫ですわ」


 その答えにホッとしたような表情でアルベルタ嬢が頷いた。

 

「では薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツにご参加いただきたいのです」


「かまいませんが……」


 アルベルタ嬢の表情からなにかあると察したおじさんである。

 言葉を濁した意味を理解したのだろう。

 アルベルタ嬢は、少しだけ重い息を吐く。


「申し訳ございません。私たちでは疑似召喚魔法がうまくいきませんでしたの」


“ああ”とおじさんは得心がいった。

 あの魔法はおじさんが手を加えたものである。

 使い魔の召喚そのものはうまくいくのだ。

 しかし、そこから先が大変なのである。

 

 きっと自分がいない間にレベルアップを図ろうとしたのだろう。

 その心意気におじさんは、ちょっと胸が熱くなる。

 

「わかりましたわ。では本日は召喚魔法の講義といきましょうか」


 こうして薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの活動方針は定まったのである。

 

 放課後になって、おじさんたちは部室に集まった。

 今日は長丁場になるかもしれないと、先ずはお茶の用意をしてもらう。

 薔薇乙女十字団ローゼン・クロイツの会合では、持ち回りで茶菓子や軽食が提供されるのだ。

 本日は聖女の番であった。

 

「むふふ。今日はアタシが用意したのよ」


 正確には聖女が養子に入った貴族家の使用人がである。

 ただ誰もそんな野暮なツッコミはしない。


養家ウチの領地は畜産が盛んなのよ! ってことで召し上がれ!」


 聖女の家の使用人が用意してくれたのは、まさかのハンバーガーとフライドポテトだった。

 しかもボリュームがスゴい。

 いわゆるファストフードのチェーン店のものではなく、アメリカンなお店でだされる本格仕様のハンバーガーであった。

 串を刺して形を保っているというやつである。

 おじさん的に嬉しいのは、オニオンリングも添えられていたことだ。

 

 肉が好きと公言して憚らない聖女らしい差し入れである。

 おじさんも前世では、よく見かけたものだ。

 女子中高生がチェーン店でダベっているのを。

 

「ねぇエーリカ」


 アルベルタ嬢が口を開いた。

 

「フォークとナイフがありませんわ。どうやって食べたらいいの?」


 その問いに聖女が“にぃ”と好戦的な笑みをうかべた。

 

「それはね、こうするのよ!」


 聖女がハンバーガーを上からぎゅっと押す。

 そして圧縮されたものを手で掴むと、豪快にかぶりついた。

 

「うううん! デリシャス!」


 口の周りにはべったりとソースがついている。

 その様を見て、御令嬢たちはドン引きしていたのだ。

 しかし、その中でただひとり。

 おじさんだけは、聖女の思い切った行動に感心していた。

 

「え? ちょ! さすがにそれは恥ずかしいのです!」


 天真爛漫なパトリーシア嬢でさえ、そんなことを口にするのだ。

 ここは一肌脱ぐべきか、とおじさんは考えた。

 

「えい!」


 と可愛らしく声をあげて、ハンバーガーを押しつぶす。

 

「り、リー様!?」


 アルベルタ嬢が目を丸くしていた。

 それに構わず、おじさんはその口でかぶりついたのであった。

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