第96話 おじさん建国王の魔道具を発見する


『ボブはキャサリンを見て言った。ボクに惚れちゃいけないぜ。そんな! キャサリンは……なんだこの駄文はっ!』

 

 トリスメギストスが暴言を吐いた。

 その対象は建国王が残していた本のひとつだった。

 

「トリちゃん、そういうのはあとでいいのですわ」

 

 万象ノ文殿ヘブンズ・ライブラリーというのは伊達ではない。

 過去から現在に至るまで、広く知られた書籍はすべて内容を網羅している。

 建国王の私室にある中では、独自に編纂された魔法関連の本などを既に取りこんでいた。

 もちろん日記の類も例外ではない。

 

 この便利すぎる能力があるが故に、おじさんとしては別に実物の本はいらなかったりする。

 ただ建国王の申し出があったのだから、自分で管理した方がいいだろうと判断したのだ。

 とは言え、とりあえずのところは宝珠次元庫にしまうだけであるが。

 

 そんなことを考えつつ、おじさんは部屋の奥に置かれていた机を見た。

 木製の一般的な物である。

 ただ何かしら違和感を覚えるのだ。

 

「トリちゃん、あの机になにかありますの?」


『しばし待たれよ』

 

 トリスメギストスがふよふよと宙を漂うにようにして机の周囲を飛ぶ。

 

『我が主よ、この机には仕掛けが施してあるぞ。見えにくくしてあるがアール・ド・レイクの封印術だ』


“なるほど”とおじさんは大きく頷いた。


「リー、ちょっといいかい?」


 宰相であった。

 

「アール・ド・レイクの封印術とはなんだろうか?」


「アール・ド・レイクは後期魔導帝国の時代に活躍した賢者のことですわ。その御仁が独自術式の封印術を開発していますの。建国王陛下はその術式を使って封印を施したようですわ。制御が難しいのですが、その堅牢性は推して知るべしですの。あと隠蔽も併用されていますから、建国王陛下は相当の腕をお持ちのようですわね」


「リーよ、それはひょっとして暁の賢者殿のことかな?」


 今度は国王である。

 後期魔導帝国時代に活躍した賢者と言えば、暁の賢者が有名だ。

 他にも何人かいるのだが、それぞれ実名はあまり知られていない。

 二つ名の方が圧倒的に広まっているからだ。

 

「一般的にはそちらの名が知られていますわね」


「ちょっと待って。暁の賢者殿の独自術式なんて聞いたことがないんだけど」


“ほへ”とおじさんが拍子の抜けたような声をだす。

 暁の賢者のことを知ったのはどこでだったのか。

 記憶をたどってみる。


「お祖母様にお借りした本にありましたわ」


「叔母上かっ! ……まさか禁書庫から」


 国王が声をあげた。

 どうにも不穏な言葉が聞こえたような気がするので、おじさんはニコッと笑ってごまかす。

 

「さぁ? お祖母様は何も言わずにお貸ししてくださいましたけど」


「本当に何も言われなかったか? リーよ」


 やけに目力をこめる国王の圧力に負けるおじさんであった。


「確か……わたくしなら大丈夫とかおっしゃっていたような」


“はぁ”と大きな息を吐いて、国王が額に手をあてた。

 どことなくいたたまれない空気になる。

 そんな空気の中、トリスメギストスの低音ボイスが響く。

 

『主よ、我が封印を解いてしまってもよいか?』


 きちんと確認するトリスメギストスであった。

 一度、盛大にやらかしてから反省したのである。

 

「おまかせしますわ」


『承った』

 

 トリスメギストスの宝珠が輝く。

 すると、机の上に輝く幾何学模様の魔法陣がうかびあがる。

 次の瞬間には一メートル四方ほどの大きさの木箱が置かれていたのだ。

 

『この魔力の反応からして魔道具であるな』


 その言葉におじさんはテンションがあがる。

 建国王が作った魔道具には、とても興味があったのだ。

 ささっと近づいて木箱の上部に手をかける。

 

 魔法的な封印があったが、おじさんにかかればお茶の子さいさいだ。

 中にはいくつかの魔道具が入っている。

 その中のひとつを手にとって、おじさんはじっくりと眺めてみるのであった。

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