第81話 おじさん一行のダンジョン攻略らしくない小休止

「さ、さぁ行くわよ! ダンジョンはまだ攻略中なんだから!」


“こほん”と咳払いをしてから、聖女は腕を大きく振って歩きだす。

 残された三人は聖女の小さな背中を見て、“お、おう……”と思うのであった。

 

 聖女の後ろを歩きながら、他愛のない話をする。

 

「私はリーお姉様のお料理の中だと、お魚のサンドイッチが好きです!」


 パトリーシア嬢の言葉に賛意を示したのがアルベルタ嬢だ。


「そうね、あれは確かにいいものね。でも、私としてはスイーツも外せませんわ」


「アタシはだんぜんお肉派! リーのところのローストビーフって美味しいのよね」


“ああ”と三人が頷く。

 そんな三人の会話を聞きながら、おじさんは小鳥を飛ばしていた。


「三人ともそこの角を右ですわ。少し行ったら広間ですの」


 おじさんの言葉に従って、先へと進んでいく。

 ものの数分もかからずに広間にでたのだが、なにもない空間だった。

 

 これまでの通路と同じように石壁で囲まれている。

 広さとしては十メートル四方だ。

 通路とつながっているのと反対側には扉が見えていた。

 

 おじさんの持っている資料によると、扉の先に転移装置がある。

 そこがゴールなので、全員が通りすぎたところで結界を張った。

 

「ちょっとここで休憩としましょう」


 そう言いながら、小鳥の式神を戻す。


「そうね、それがいいわ」


 聖女が賛成をして、広間で休憩をとることになった。

 おじさんが宝珠次元庫から、休憩用のセットを取りだす。

 と言っても、椅子とテーブルに茶器くらいである。

 

「リーお姉さま、私、今日はおすすめの物を持ってきたのです!」


 パトリーシア嬢が手をあげて、腰のポーチから宝珠次元庫を取りだした。

 

「え? パティ、それどうしたの?」


 アルベルタ嬢の問いにさらりと応えるパトリーシア嬢である。


「お父様に言って、手に入れてもらったのですよ!」


 そうなのだ。

 実はすでに宝珠次元庫は、祖母が開発を引き継いでいる。

 そして、王家をつうじて試験的に売りにだしていたのだ。

 一般的な流通には程遠いが、貴族であれば手に入れることができる。

 

 パトリーシア嬢の実家は伯爵家である。

 ただ軍務系上位の立場であるだけでに入手しやすかったのだ。

 そもそも宝珠次元庫は兵站を変える可能性もある。

 おじさんが所有しているものほど収納力はないが、貴重な品なのだ。

 

「これですの! うちの領地の名物ですわ!」


 パトリーシア嬢がだしたのは、果物のパイであった。

 ツヤツヤとした茶色の生地から立ち上るバターの香気が素晴らしい。

 果物特有のどこか甘酸っぱさのある匂いもある。

 

「うわ! めっちゃ美味しそうじゃん!」


 聖女の言葉に“ふふん”と胸を張るパトリーシア嬢であった。

 

「本当に香りもいいし、美味しそう」


 意外と食いしん坊なアルベルタ嬢は目を閉じて香りを楽しんでいた。

 もちろんおじさんも、絶対に美味しいだろうなと考えている。

 

「まずはお世話になっているリーお姉さまに召し上がってほしいのです!」


 手早く切り分けたパイを、パトリーシア嬢がおじさんの前に置く。

 その断面からは、トロリとした果物の果肉が見えている。


「ではお先にいただきますわね、パティ」


「どうぞ、召し上がってくださいな」


 おじさんがお行儀よく、フォークとナイフで切り分けてから口に運ぶ。

 口の中で熱せられて甘みを増した果物がとろけるようである。

 パイ生地のサクサクとした食感も楽しい。

 

「とっても美味しいですわ!」


 おじさんはパトリーシア嬢に満面の笑顔を送る。

 その笑顔の眩しさは、何物にも代えがたいものがあった。

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