第82話 おじさん動く
パトリーシア嬢の持ってきた果物のパイは好評であった。
四人は軽く小腹を満たして、お茶もしっかりと飲んだ。
おじさんに手抜かりはないのである。
なんだったらトイレまで用意していたのだから。
小休止という割には、ゆったりとした時間が流れていた。
安全な初級ダンジョンと言えど、こんな贅沢な時間が過ごせるわけがない。
ないのだが、おじさんのやることである。
すでに毒されている聖女やアルベルタ嬢、パトリーシア嬢もその事実に気づいていなかった。
とは言えである。
あまり時間がかかりすぎると、心配されるだろうからとおじさんは席を立った。
「そろそろダンジョンの攻略を進めましょうか。と言っても、手元の資料ですとあの扉のむこうに転移装置があるはずですわ」
「そうですわね。さすがに時間をかけすぎるのもよくありませんわね」
アルベルタ嬢の言葉に、パトリーシア嬢も頷いていた。
「では、さっさと攻略しちゃいましょう」
おじさんは休憩セットを宝珠次元庫にしまう。
パトリーシア嬢にはお礼として、茶器をプレゼントするおじさんであった。
「さぁ行くわよ!」
迷宮を進んできた疲れがすっかり癒えた一行は、再び聖女を先頭にして扉を開けた。
資料通りに転移装置が部屋の中央に鎮座している。
「では、帰りましょうか」
おじさんの提案に待ったをかけるものがいた。
「甘いわね、リー!」
聖女である。
「こういう出口だけの部屋に限って、隠し部屋とかあるのよ! お約束じゃない」
「そうなんですの?」
「そうよ、こういう場所はいちばん気を抜くところでしょ。だから意地の悪い奴らは宝箱とか置くのよ!」
聖女の言葉に一理あると考えたおじさんである。
ただダンジョンは神の試練と言われているのだ。
つまりダンジョンの作成者は神ということになる。
その神を意地の悪い奴ら呼ばわりする聖女に問題はないのだろうか。
おじさんと同じことが考えていたアルベルタ嬢が言葉にしてツッコんだ。
「エーリカ、それって聖女として問題ありだと思うのだけど」
「細かいことは気にしなさんな! さぁ調べるわよ」
聖女が転移装置のあるストーンサークルの向こう側へと足を向ける。
ただおじさんが見る限り、これまでと同じ石壁にしか見えない。
本当に隠し部屋だとかあるのだろうか。
そんな疑問をいだいたときであった。
パトリーシア嬢が足元の出っぱりに
「きゃ」
“お気をつけて”とおじさんが、転びそうになったパトリーシア嬢の腕を引く。
その反動でパトリーシア嬢がおじさんの胸の中にスポンとおさまってしまう。
そんな彼女を見て、アルベルタ嬢がハンカチを噛みしめるような仕草をしていた。
「ありがとうございます、ですの。へへ、リーお姉さま、とってもとってもいい匂いですの!」
とパトリーシア嬢が、おじさんの胸をくんかくんかとする。
その瞬間であった。
ごうんと音がした。
そして壁を調べていた聖女の足元に大きな穴が空いたのだ。
「にゃんでええええぇぇぇぇぇ!」
聖女の声がドップラー効果を発揮しながら遠ざかっていった。
それを見たおじさんの行動は素早かった。
「アンちゃん!」
パトリーシア嬢を横にして、素早く鎖の神器アンドロメダを召喚する。
と同時に穴にむかって、鎖を伸ばした。
しかし無情にも聖女にとどかなかったのである。
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